あなたも私も松ケンも“人類はみなワタナベ”――松山ケンイチ『ノルウェイの森』を語る(1/2 ページ)

» 2011年06月14日 08時00分 公開
[櫻井輪子,Business Media 誠]

 今なお読まれ続けている村上春樹の大ベストセラー『ノルウェイの森』の映画化は、監督にとっても、役者にとってもリスキーな仕事であったに違いない。初版出版時に学生だった世代はもちろん、誠読者の世代にも、ハルキストで自分の中に“ワタナベ像”を持っている人は多いだろうから。

松山ケンイチ 松山ケンイチさん

 「僕の演じたワタナベは、26歳という年齢で感じとったものでしかないので……もっと深いと思うんですよね、原作の中にある愛についての考え方だったり価値観といったりするものは。だから村上春樹さんには、『ノルウェイの森』としてどうか? ではなくて、単に映画としてどうだったか感想を聞きたい」――ワタナベを演じた松山ケンイチさんはインタビューの冒頭にそう語った。

「今なら自分ははっきりと大人だと言えるんですけど、撮影時はそうかと言われたらそういうわけでもなくて、流されてしまう自分という部分もあって。それがワタナベと近いなと感じていました。ワタナベが大人になっていくように、撮影を通して自分も大人になっていったような感じはしています」

 自分に似ているところもあるけれど難しいワタナベをどう演じ、自分のものにしていったのか。松山さんはトラン・アン・ユン監督と、よく分からないことがあったらとにかくやってみる、やってみて一緒に正解を見つけていくということを繰り返した。

 ときに監督は、ワタナベの心情を風景や音楽にも語らせた。その監督の手法は「ワタナベは顔に出していないのに音楽や風景が痛々しくて、それが逆にワタナベを描いている。そういう描写がすごい。風景も色も人間以上に感情を表現してる。今までに見たことない撮影方法だな」と、松山さんを感嘆させた。

 高校時代の親友を自殺で亡くしたワタナベは、自分から積極的にコミュニケーションするタイプではない。彼のたたずまいはいつも、どこか途方にくれていて、ナオコやミドリとの関係の中で常に正解を探している。特に、目の表情が印象的だ。

「目の動き、しぐさ、細かいところまで監督は演出していました。やってみて、すぐ皆でモニターで見て、この目の動きがワタナベじゃないとか、この目の動きは邪魔だとか、でもその後の表情は良かったとか。細かいところからも、人の品性のようなものは感じられるだろうし、繊細さとか危うさとかふわふわした感じとかも。そういうところまで監督の演出が入ってます」

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