ネットの世界に住む巨大なゴリラとは何か――「ソーシャルネイティブ」の時代遠藤諭の「コンテンツ消費とデジタル」論(2/3 ページ)

» 2011年06月23日 11時00分 公開
[遠藤 諭,アスキー総合研究所]
アスキー総研

ネットの世界にも巨大な“ゴリラ”が存在している

ソーシャルネイティブの時代 『ソーシャルネイティブの時代』アスキー新書および電子書籍版

 正直なところわたしもそうなのだが、日々流れてくるニュースを追ったり、新しいサービスを試すことで、ほとんど手一杯になっている。FacebookやAppleやGoogleなどの企業の活動やサービスを追って、それらの断片的な情報を、ジグソーパズルのようにつなぎ合わせている。それは、バスケットボールのパスの回数を数えるようなもので、実は「ゴリラ」が見えていないのではないかと思うのだ。

 そのゴリラとは何かというと、バーチャルとリアルが融合した、目に見えない新しい地平のことなのだろう。言葉にすれば簡単だが、それはゴリラ並みにとんでもないことを、軽々と起こしてしまうものだ。これを書いている間にも、米国第2位の書店であるボーダーズが倒産したというニュースが入ってきた。

 このゴリラをきちんと認識するには、どうすればよいか? それには、日々のニュースを追うこともさることながら、生活している人たちが実際に何をやっているかを見るべきだと思う。そのことをテーマにして、『ソーシャルネイティブの時代』(アスキー新書および電子書籍版)という本を書かせてもらった。アスキー総研が取り組んでいることは、こういうことなのだということも伝えたかったからだ。


「ソーシャルネイティブ」抜きに、これからのビジネスはあり得ない

 1990年頃に産まれた人たちは、物心がついたときには携帯電話やネットがあり、大学生になった頃にはmixiやGREEが流行っていた。彼らは、最初からソーシャルメディアありきで社会に出てくる、「ソーシャルネイティブ」ともいうべき人たちである。今後、こうした世代が確実に増えてくるのに対して、彼らの行動様式や思考形態を抜きには、マーケティングも企画もなにもないだろう。

 今まで日本のデジタル文化を引っ張ってきたのは、30〜40代だった。とくに30代は、物心が付いたときにファミコンがあり、高校生のときにポケベルブームがあり、大学生になったときにはネットがあったという人が多い。ネット業界で活躍する人の多い「76(ナナロク)世代」は、まさにそんな人たちだろう。彼らは、いわゆる「デジタルネイティブ」というべき人たちで、SNSもiPhoneも、彼らがまず手を出したと思われる。

年代別のソーシャルメディア利用比率。mixi、Twitter、Facebookいずれも20代の利用率が高い

 ところがアスキー総研の調査では、たった今のソーシャルメディアの利用率も、そのための重要な道具であるiPhoneの利用率も、20代が最も高いのだ。mixiの利用率は、20代が34.8%と3人に1人が利用。Twitterも20代が25.1%と、4人に1人が利用している。30代、40代は、それぞれ4〜7人に1人の割合でしか使っていない。Facebookのユーザー数は、調査時点では200万人程度(現在は300万人以上)と推定されるが、やはり20代が3.5%と最も高い。また「1、2年以内に買いたいもの」としてiPhoneを挙げたのは、10代が約12%と最も高い比率となっている。

 「商品・サービスの評価、その他情報」でのネットの活用の違いは、より顕著である。30代以上では、新しい商品やサービスの情報源を「ブログ」や「ニュースサイト」としている人の比率が高いのに対して、20代は、ソーシャルメディアや動画サイトを情報源にしている傾向が高い。20代ではSNSが8.7%(30代は5.2%)、Twitterが6.6%(30代は3.9%)、YouTubeやニコニコ動画が7.4%(30代は2.7%)となっている。利用率以上に、ソーシャルメディアが消費行動のきっかけになっている比率が高いのだ。

ネイティブマップ。年代と、メディア体験年齢をマッピングしてみた。ソーシャルネイティブとなるはずの世代が、すでに一定のボリュームになっていることが分かる

「デジタルネイティブ」から「ソーシャルネイティブ」へというのは、こういうことなのだろう。

 1月下旬、前述の『ソーシャルネイティブの時代』の原稿を印刷会社に入れる頃になって、チュニジア、エジプト情勢が騒がしくなってきた。この2つの国で起きたことに、ソーシャルメディアが果たした役割は大きい。エジプトでは、Facebookが大規模なデモを可能にしたと言われている。ソーシャルメディアによって、人と人のネットワークが活性化しているのは確かなのだ。

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