今もっとも注目すべき作家・名和晃平「シンセンス」(3/3 ページ)

» 2011年07月01日 16時28分 公開
[上條桂子,エキサイトイズム]
エキサイトイズム
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 次の作品は、名和氏が最近取り組んでいるパブリックアートの模型である。実体を虚像に仕立てるところから、3Dデータから彫刻を作るプロジェクトが派生し、このプロジェクト「MANIFOLD」が生まれた。manifoldとは多様体、多岐官を表す言葉で、3Dソフトを使って最初の設計図が作られる。

エキサイトイズム

 空間に球体を配置し、引力によってそのかたちを変型させていく。「コンピュータで作られる立体物に対し、できるだけ自分の手、フィジカルな力を加えていきたいと思った」と名和氏はいう。この彫刻は韓国のチョナンに設置される予定のもので、完成予定サイズは13×15×12メートル(高さ×幅×奥行き)の巨大なものになるという。

 体を動かし、最新の技術を使い、素材の実験を繰り返して、名和氏は人間がいままで見たことのない新しい価値や感覚への接続口を次々と開いていく。空間ごとの境界も見事で、真っ白な空間を通り抜けたと思ったら、黄色い部屋へと誘われ、奥に控える青い部屋は何かと一歩足を踏み入れると、その奥にはオレンジの光が差し込む。

 空間は分断されずに、すべてがひと続きになって吸い込まれるように回遊できる構成になっているのだ。そして、それぞれの部屋では、見ることへの疑い、物質への疑い、実存在への疑い……。新しい体験を1つするとさらに新しい疑問が沸き起こり、ぐるぐる歩き回ることになる。見る順番を変えると、また違った体験ができる。

 個人的に気になった作品は「SCUM」というシリーズである。以前にメゾンエルメスでこの作品を見たときには、正直いまいちよく分からないという印象だった。オブジェクトをSCUMが覆うシリーズは分かるのだが、この抽象的なぐにょぐにょした、近くで見ると鳥肌が立ってしまいそうな気持ち悪さ。理解できない。しかし、気持ち悪いといいながらも、この作品は頭の中に強烈な印象を刻み込んでいた。

エキサイトイズム 「Scum-Apoptosis」2011「名和晃平─シンセシス」2011年 展示風景 東京都現代美術館 撮影:豊永政史(SANDWICH)(c)2011 Kohei Nawa

 今回、さらに巨大化した「SCUM」が、空間にうねうねとはびこり、私たちに迫り、途中で溶け出している。説明を聞くとscumというのは、「灰汁」などの意味を持つ。虚像と実体を追い求め、情報が肥大化し、沸々と湧き上がった一部のものは作品化するが、そこからさらにぶくぶくと漏れでて制御不可能になったものが「SCUM」として登場するのだ。

 ゆえに形に意味もなく、情報や作品が大きくなればなるほど、このSCUMは増殖していく。この、ある種の気持ち悪さを包含する存在も含めて、世界を構成しているということを私たちは認識しなければならない。この存在を忘れてはならない、と訴えられているように思えた。

 会場には一切説明キャプションがない。鑑賞者のそのときの気持ちでとらえればいい、と名和氏はいう。じっと見ていたらどこか異世界に入り込んでしまうような作品もあり、空間全体で感じる作品もあり、ダイナミックでただただ圧倒されてしまう作品もあり、五感プラス脳の奥の方をくすぐられるような感覚が存分に堪能できる展覧会だ。何度もぐるぐる体感してほしい。8月28日まで。

名和晃平─シンセンス展

開催中〜8月28日(日)

東京都現代美術館 東京都江東区三好4-1-1

お問い合わせ:tel.03-5777-8600


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