将を射んと欲すればまず女子高生を射よ――シーブリーズの噴水戦略それゆけ! カナモリさん(2/2 ページ)

» 2011年07月06日 08時00分 公開
[金森努,GLOBIS.JP]
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女子高生から親への波及効果狙う

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 同商品が展開する4色の容器・香りは、「人気の4色を使い、日焼け止め商品としては珍しい香りも加えて女子高生の遊び心を刺激する」(同記事)とある。日焼け止めは、「これまでは日中に何度も塗り直す必要があるため面倒に思う女子高生が多く定着に時間がかかった」(同記事)という。朝のお出かけ前に制汗剤をつけてお気に入りの香りを身にまとい、同じ香りの日焼け止めをつけて香りを持続させる。本来面倒な作業も楽しみに変わるという寸法だ。

 日焼け止めを塗り直して香りをさらにつけるという行為をうながすことは、「8×4デオウォーター」への強力な対抗策となる。同商品は、花王が石けんやシャンプー、洗剤、柔軟剤などに用いている、「香りが長続きする」という得意技である、「はじける香りカプセル」を採用し、シーブリーズの上を行こうという戦略だ。それに対して、制汗剤の香りを持続させるのではなく、日焼け止めを楽しみながら塗らせて、香りをさらに付けるという行為に代替させることができるのである。

 「8×4デオウォーター」の同質化戦略をかわしつつ、シーブリーズは別のターゲットも狙っている。「制汗剤の場合、年代別の使用率は10代に次いで40代が高い。子どもにせがまれて買ってきた親が気に入ってそのまま使うケースが多いという」(同記事)とある。40代の親は「元祖シーブリーズ世代」だ。「あら、シーブリーズがこんなにオシャレになっちゃって!」と抵抗なく試用し、お気に入りになる確率は高いだろう。

 記事では、「日焼け止めクリームも噴水のように下から上に需要層を広げていけるかも見どころだ」とまとめている。

 ターゲットを評価するには「5R」という考え方を用いる。「Realistic Scale(規模)」「Rate of Growth(成長性)」「Reach(到達性)」「Rival(競合状況)」「Rank&Ripple Effect(優先順位と波及効果)」という検証ポイントの頭文字5つのRだ。

 シーブリーズの場合、Rank&Ripple Effect(優先順位と波及効果)において、制汗剤で主使用層として女子高生を優先し、そこからその母親に波及させた。日焼け止めにおいても同様の展開を意図しているのだ。

 「シーブリーズUVカット&ジュエリー」の今後の課題は、記事にある「噴水効果」を実現することだ。40代母親層が選択する日焼け止めは、機能性やブランドなどさまざまな切り口で多数の商品が存在する。その中で、「娘と一緒」「青春の日々に使ったブランド」など刺さるKBF(Key Buying Factor)を訴求していくことがキモとなる。しかし、そこでDMU(Decision Making Unit=購買関与者)としての娘・女子高生をうまく動かすことが欠かせない。

 「娘の使う商品のついで買い」ということは、娘にとっては自分の小遣いで買うのではなく「母親に買ってもらえる」ことを意味する。せっかく4種の香りがあるのだ。「毎日の気分によって使い分ける」ことなどを流行らせ、母親に「大人買い」させて、使用を習慣化させることなども有効だ。

 うまくすれば、大人買いしてくれるお金を出す母親をユーザーとして取り込むには、「将を射んと欲すればまず馬を射よ」だ。いかに女子高生を今以上のファンにさせ、母親に働きかけをさせるかがカギとなるだろう。

金森努(かなもり・つとむ)

東洋大学経営法学科卒。大手コールセンターに入社。本当の「顧客の生の声」に触れ、マーケティング・コミュニケーションの世界に魅了されてこの道 18年。コンサルティング事務所、大手広告代理店ダイレクトマーケティング関連会社を経て、2005年独立起業。青山学院大学経済学部非常勤講師としてベンチャー・マーケティング論も担当。

共著書「CS経営のための電話活用術」(誠文堂新光社)「思考停止企業」(ダイヤモンド社)。「日経BizPlus」などのウェブサイト・「販促会議」など雑誌への連載、講演・各メディアへの出演多数。一貫してマーケティングにおける「顧客視点」の重要性を説く。


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