1000万人に配信! マクドナルド新型クーポンのウラを読むそれゆけ! カナモリさん(1/2 ページ)

» 2011年07月20日 08時00分 公開
[金森努,GLOBIS.JP]

それゆけ! カナモリさんとは?

グロービスで受講生に愛のムチをふるうマーケティング講師、金森努氏が森羅万象を切るコラム。街歩きや膨大な数の雑誌、書籍などから発掘したニュースを、経営理論と豊富な引き出しでひも解き、人情と感性で味付けする。そんな“金森ワールド”をご堪能下さい。

※本記事は、GLOBIS.JPにおいて、2011年7月15日に掲載されたものです。金森氏の最新の記事はGLOBIS.JPで読むことができます。


 7月14日付日本経済新聞に「マクドナルド 一人ひとりに異なる値引き 新型クーポン1000万人に配信 購買履歴を分析」というタイトルの記事が掲載された。同社の抱える携帯電話サイトに登録している約2000万人の会員のうち、おサイフケータイ機能を持った約1000万人が対象だという。

 会員の特性に合わせたクーポンの例も挙げられている。「土日の昼にコーヒーを頻繁に購入する→週末の朝にコーヒーが無料になる」「一定期間、来店していない→従来よく購入していたハンバーガーなどを割引」「来店頻度は高いが、新発売のハンバーガーを購入していない→新発売のハンバーガーを大幅に割引」「ハンバーガーのセット商品の購入頻度が高い→アップルパイなど1品加えても手軽に食べられるメニューを割引」などだ。

 同記事にも書かれているが、日本マクドナルドは1990年代後半から2000年代初頭にかけて最安値ではハンバーガーを50円台で販売するなど、極端な価格政策を展開してブランド価値の棄損を招いた。その反省から、一時期は「クーポンは禁じ手」とされたこともある。

 転機が訪れたのは、携帯電話の普及だ。それ以前の1996年に日本マクドナルドのWebサイトが開設された時から顧客自らがプリントアウトして来店する「Webクーポン」が実施されていたが、さらに顧客の携帯電話にクーポンが配信される仕組みに進化した。それをさらに磨き上げ、「2004年以降、計300億円をかけて顧客情報などを分析するITシステムを構築。来店客の購買パターンなどのデータが一定程度蓄積されたため、本格的な個人向けサービスに踏み切る」(同紙)のだという。

 安値攻勢の反動で苦しんだ日本マクドナルドは、現在の原田泳幸社長体制となってからは「売上=客数×客単価」の基本を徹底して行っている。コーヒーや飲料、ナゲットなどの無料や100円販売は「コマセ」の施策として「客数増」のために実行。定番メニューやセットの定価は決して値引きすることなく静かに「定置網」のように販売しつつ、Big Americaシリーズやチキンメニューの中〜高価格帯メニューは針を仕込んだ「喰わせエサ」として投入する。「定置網」と「喰わせエサ」は「客単価」の維持と増加のための施策だ。

 また、ハレ(非日常)とケ(日常)のマーケティングを駆使しているのも特徴だ。原田社長が2004年に着任して最初に手を付けたのは、QSC(Quality、Service、Cleanliness)の向上。簡単に言えば、「お客さまに気持ち良くおいしいものを食べてもらう」こと。クオーターパウンダーやBig Americaシリーズなど、ハレのマーケティングがどうしても目立つが、ケのマーケティングがしっかり構築されており、ハレ⇔ケのグッドサイクルが回っていることを忘れてはいけない。

 デフレ下の外食産業で独り勝ち状態の原田マクドナルド。もはや、「ハンバーガー業界の王者」であるだけでなく、「1000円以下のカジュアル外食のリーダー」企業であらんとして戦っている。そして事実、チキンメニューではシェアナンバー1となっている。

 しかし、決定的な弱みがある。それは、同社が「日本」マクドナルドであることだ。

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