1000万人に配信! マクドナルド新型クーポンのウラを読むそれゆけ! カナモリさん(2/2 ページ)

» 2011年07月20日 08時00分 公開
[金森努,GLOBIS.JP]
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カスタマイズクーポンの背景、可能性とは……

 200円台前半まで低価格競争が進んだ牛丼業界では、戦いの場を中国にも拡大している。吉野家のホームページに以下のような記述がある。「2010年末、吉野家の海外店舗は全体で439店舗、なかでも香港を含む中国が261店舗と半分以上を占めます。中国においては速やかに1000店舗を達成することが当面の目標です」。すき家を運営するゼンショーも中国進出に力を入れ始めた。

 牛丼チェーンの狙いは明らかだ。人口の縮小が加速化する日本市場より魅力的な中国市場を拡大する。しかも、北京の吉野家では牛丼並盛が13.5元(日本円にして約190円)という現地としては高価格で販売されている。利益の出ない価格で限られたパイを奪い合う日本での戦いとは大きく様相が異なる。

 日本マクドナルドの営業エリアは日本市場に限られる。外食産業総合調査研究センターによると、2008年の国内外食市場は前年比0.5%減の24兆4315億円と、ピークの1997年から16%も縮小している。市場の縮小を前提とした戦略を立てねばならない。戦略の基本としている「売上=客数×客単価」の客数、新規顧客の伸びはもはや期待できない。

 「(のべ)客数=顧客数×利用回数」「客単価=商品単価×注文数」にもう1段階分解して展開を考え、その方策として利用回数と注文数を増す、「1人1人に最適化されたクーポン」を配信するのではないだろうか。

 日本の人口動態の変化は日本マクドナルドにとってフォローの風も吹いている。人口縮小はもはや止めようもないが、2015年までは世帯数の増加が予想されている。ナゼか。それは単身世帯の増加によるものだ。晩婚化、少子化、高齢化……結果的に「お一人さま需要」が増えている。昨今のマクドナルドの店舗を見れば、一人でも気兼ねなく食事ができる「お一人さま用席」を増やしていることが分かるだろう。

 また、中食需要の高まりや家庭内での個食化もテイクアウト利用を増すことになる。マクドナルドではドライブスルー併設店は昨今、利用が2ケタの伸びであるという。その、フォローの風を受けて、さらに売り上げ上昇につなげるために「個別クーポン」が効いてくるのだ。

 人口動態や食事に対するニーズの変化という社会的な変化ばかりではない。今、新クーポンをリリースするのは、技術的な成熟度の観点からもタイミングが合っている。前掲の記事の内容にあるように、対象となるのは「約2000万人の会員のうち、おサイフケータイ機能を持った約1000万人が対象」だ。

 携帯電話はスマートフォンへの買い換えが進んでいる。主力のiPhoneにはおサイフケータイ機能は搭載されていないが、おサイフケータイ機能を利用可能にするFeliCaシール、「電子マネーシール for iPhone 4」がソフトバンクBBから発売されている。Android OSを搭載した国内勢も従来の携帯電話=ガラケー(ガラパゴス携帯)の機能を取り込んだ「ガラスマ(ガラパゴススマートフォン)」で巻き返しを図り始めた。おサイフケータイ機能非対応の携帯電話利用ユーザー1000万人もスマートフォンへの買い換えでクーポンの対象会員となるかもしれない。

 先ほどのハレとケで言えば、ケの部分に当たる地味なインフラ整備。だが、革新的だ。購買履歴を基に商品をレコメンドし、値引きクーポンで購入をうながす仕組みが、どこまで顧客の心をつかむことができるのか、という観点からも面白い実験になる。

 アマゾンなどを筆頭にネットではすっかり当たり前になった感があるが、リアルの場面で、人間でなく、システムが購入をレコメンドする仕組みは、あまり聞いたことがない。今回の試みが成功すれば、恐らく野火のように広がっていくのではないだろうか。それは、私たちの消費行動、マーケティング活動を大きく変える可能性を持つし、その応用可能性を考えれば、日本のサービスが世界で一歩抜きんでるチャンスのようにも思える。

 商圏が限られている。商圏内人口が縮小している。逆風をはねのけるため300億円を投じた原田マクドナルド入魂の施策が、どのような実を結ぶのか注目である。

金森努(かなもり・つとむ)

東洋大学経営法学科卒。大手コールセンターに入社。本当の「顧客の生の声」に触れ、マーケティング・コミュニケーションの世界に魅了されてこの道 18年。コンサルティング事務所、大手広告代理店ダイレクトマーケティング関連会社を経て、2005年独立起業。青山学院大学経済学部非常勤講師としてベンチャー・マーケティング論も担当。

共著書「CS経営のための電話活用術」(誠文堂新光社)「思考停止企業」(ダイヤモンド社)。「日経BizPlus」などのウェブサイト・「販促会議」など雑誌への連載、講演・各メディアへの出演多数。一貫してマーケティングにおける「顧客視点」の重要性を説く。


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