モスの低価格カフェ「MOSCO」は何を狙っているのか?それゆけ! カナモリさん(2/2 ページ)

» 2011年08月03日 08時00分 公開
[金森努,GLOBIS.JP]
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“モスらしい”コーヒーショップは具現化されているか

「白いトマトジュースアップル酢」

 モスカフェの展開を企業の成長戦略を考える「アンゾフのマトリックス」でみてみよう。既存の顧客を対象にするのか、新規の顧客を狙うのか。既存の製品を用いるのか、新製品を開発するのか。顧客・製品、新規・既存の掛け合わせの4つだ。

 モスカフェで考えれば、「(一部)既存顧客×(大半が)新商品」という、「新商品開発」にあたり、マイケル・ポーターが検証したところによれば成功率の高いパターンである。しかし、MOSCOは「(ほとんどが)新たな顧客層×(ほとんどが)新商品」という、最も成功率の低い「多角化」のパターンだと考えられる。

 「多角化」のパターンを成功させるには、自社の既存事業とのシナジーが欠かせない。モスの従来事業とのシナジーという観点でMOSCOを検証すると、意外としっかり狙っていることが分かる。

・生産シナジー=工場設備や原材料の共有

 バリューチェーンで考えれば、ショップで用いられる食材は既存のモスやモスカフェ、MOSCOも同じ工場(セントラルキッチン)で作ることができる。ランニングコストの低減に反映できる。

・経営シナジー=人材や経営ノウハウの共有

 カフェの運営も人を使うことがキモである。まして、モスはフランチャイズが大半のため、マニュアル化が欠かせない。そのノウハウは十分にある。オペレーションの安定が早期に図られ、ロスを最小化できる。

 一方で、モスブランドが活きるかというと、若干疑問が残る。

 楽観論。モスバーガーという知名度、認知度の高さを利用して、名も知らぬ店が通り道に出店する場合より、足を止めさせ店内に引き込む力がある。認知獲得、ブランド構築のための初期投資を抑えることができる。

 悲観論。モスバーガーが長年にわたって築いてきた「手作り」「食材」「美味しさ」へのこだわりというイメージがMOSCOからはまったく伝わってこない。顧客のニーズギャップを自社のアイデンティティによって埋め、カフェ業態に新風をもたらし、競争優位を築けるとは考えにくい。端的にいえば、完全禁煙のドトールとどう違うのか。

 ニュースリリースを見ると、MOSCOの特徴として3点のこだわりが列記されている。

1. ホット、アイスコーヒーには「W(ダブル)認証」のコーヒー豆を使用

2. 毎日お店でしぼる白いトマトジュースと、ビネガーソースをあわせたオリジナルドリンク

3. 国産ポーク100%のソーセージ・胚芽入りパンを使用した「ホットドック」

 モスの企業理念には次の一文がある。「お客さまへ、地域社会へ、おいしさと健康と幸せをお届けし、お客さまの明日への活力の再生の場となるお店が、私たちモスバーガーチェーンの目指すお店です」

 このブランドプロミスを具現化したカフェ、コーヒーチェーンとはいかなるものか。モスはどんな体験を我々に提供してくれるのか、妄想、想像するだけでも楽しいのだが、実際に行って確かめてみたい。

金森努(かなもり・つとむ)

東洋大学経営法学科卒。大手コールセンターに入社。本当の「顧客の生の声」に触れ、マーケティング・コミュニケーションの世界に魅了されてこの道 18年。コンサルティング事務所、大手広告代理店ダイレクトマーケティング関連会社を経て、2005年独立起業。青山学院大学経済学部非常勤講師としてベンチャー・マーケティング論も担当。

共著書「CS経営のための電話活用術」(誠文堂新光社)「思考停止企業」(ダイヤモンド社)。「日経BizPlus」などのウェブサイト・「販促会議」など雑誌への連載、講演・各メディアへの出演多数。一貫してマーケティングにおける「顧客視点」の重要性を説く。


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