何が世界経済を変調させたのか?藤田正美の時事日想(1/2 ページ)

» 2011年08月22日 08時00分 公開
[藤田正美,Business Media 誠]

著者プロフィール:藤田正美

「ニューズウィーク日本版」元編集長。東京大学経済学部卒業後、「週刊東洋経済」の記者・編集者として14年間の経験を積む。1985年に「よりグローバルな視点」を求めて「ニューズウィーク日本版」創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年に同誌編集長、2001年〜2004年3月に同誌編集主幹を勤める。2004年4月からはフリーランスとして、インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテーターとして出演。ブログ「藤田正美の世の中まるごと“Observer”


 一向に落ち着かない世界の株式市場、まるでジェットコースターのような乱高下だ。そのきっかけとなったのは米国債の格下げだった。しかしその米国債の利回りは下がっている(米国債の価格は上昇している)。

 一方、いつ暴落してもおかしくないと言われ続けている日本国債にも、今のところその気配はない。リスク資産から投資マネーが逃げ出して「避難先」に向かっているとされ、金は史上最高値だが、どうして円も史上最高値なのかが、どうにもよく分からない。円高は日本居住者にとってはありがたいことに違いないが、輸出を考えるとそうばかりも言えない。

 今回は英紙フィナンシャルタイムズに掲載されたゲイビン・デービス氏の意見を紹介する。デービス氏は、ゴールドマンサックスの国際経済部のトップを長く務めた(1987〜2001年)。その後、2001年から2004年までBBC会長を務めている。英首相府の経済政策顧問と同時に財務省の外部顧問、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの客員教授でもある。言っていることが正しいかどうかは別にして、現状をきちんと整理しているという意味では、非常に参考になる意見だと思う。以下、「世界景気・なにがおかしくなったのか」と題するデービス氏の論考である。

サプライサイドの2つのマイナス要素

 つい半年前までは、多くのエコノミストが実質GDPの成長率は2011年の予測を大きく上回ると考え、企業活動も過去最高になるという調査が出ていた。もちろん、西欧諸国の経済基盤がいまだに非常に弱いということはすべての人が承知している。しかし経済活動が通常の状態になる、すなわちGDPが2008年の金融不況前の水準に戻るには差し支えがないように思えた。

 しかし今や、こうした期待がどうしようもなくひとりよがりのものだったことが明らかだ。米国の今年前半の実質GDP成長率は年率1%前後にすぎない。大陸欧州の第2四半期は第1四半期に比べて改善が見られない。ゴールドマンサックスやJPモルガンのエコノミストの現在の予測では、米国が二番底に陥るリスクは約3分の1だという。何がおかしくなったのか。

 この経済の減速をもたらしたのがサプライサイドの理由なのか、デマンドサイドの理由なのか。原因となっていることが一時的なものなのか、それとも長期にわたるものなのか。これを理解することが重要だ。もしこれを理解できれば、次に何が起こるかをより予測できるようになる。

 世界経済のサプライサイドには2つのマイナス要素が影響している。3月に起きた東日本大震災は日本のGDPを大きく押し下げた。第2四半期は本来2.0%程度だったはずだが、結果的にはマイナス2.4%になった。これによって先進国経済の成長率が0.5%押し下げられた。加えて日本のサプライチェーンが破壊されたことで、間接的に他国の成長率が年率1%ほど影響を受けた。しかしこのサプライショックは現在急速に回復している。これに伴って第3四半期は自動的に成長率が高まるはずだ。7月の米国の工業生産が0.9%増加したことは、この傾向を示すものと言えるかもしれない。

 2つ目のサプライショックは、中東の政治的混乱に伴って原油のサプライが2〜3%減ったことだ。減った分は、部分的にはサウジの増産やIRA(国際エネルギー機関)の在庫放出で埋めることができた。西側諸国の消費者が払う石油の価格はなかなか下がらない。

 もし石油価格が長期にわたって上昇すれば、先進国の消費者の購買力は今年約1%低下することになるだろう。ただ供給と需要の複雑な絡み合いがもたらす影響のために、GDP成長率へのインパクトはもっと大きくなるかもしれない。カリフォルニア大学サンディエゴ校のジェームズ・ハミルトン教授のモデルによると、石油ショックのために今年前半の米経済成長率は1.1%押し下げられた可能性がある。

 残念なことに、ハミルトン教授によれば、原油価格が急落しても、このマイナス効果が今年後半に逆転する可能性は小さい。彼のモデルでは(他の多くのモデルも同様だが)、原油価格が上昇すると、消費者は車などエネルギーと関係が深い耐久消費財を買い控える。ただ価格が下がっても以前の消費スタイルにすぐに戻るわけではないのである。

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