物書きの端くれの私は、日々Macのやさしいヒラギノフォントでつづります。2005年の「スタンフォード大学卒業式スピーチ」であなたが触れたように、リード大学で受けた「何の役にも立たなそうな書体の授業」が、PCにも美しいフォントが必要だとあなたにひらめかせました。
フォントにこだわったからこそ、デザイナーやアーティストがMacを求めてきた。Macという道具が作品だったからこそ、自分の仕事のウラ側まで点検するようになりました。作品は作品からしか生まれない。
私はいつもヒラギノでこう自問します。「1行のウラにちゃんと調査があるか?」「文を合板のように貼り合わせていないか?」。フォントのないPCなんて……あとは言わずにおきましょう。
iTunesという音楽市場の成功のウラで、アルバムをバラ売りにしたことは今でも疑問に思っています。
ただ、あなたが2003年のインタビューで言うように、「音楽業界は5000人に1人の割合で成功者(大ヒット)を作り、その利益で4999人の敗者のコストをまかなう」わけです。そのコストゆえもあって音楽家への印税率は0.9%未満。アルバムを100万枚売っても、アーティストへはたったの2500万円しか回りません(売り上げは1枚2500円として25億円)。
対してiTunesの売上配分はAppleが30%、アーティスト側が70%。レーベル次第ですが、印税は20%にもなるケースもあるでしょう。だから「18カ月かけてアルバムを出すより、1曲ずつ売りたいだろう」。正しい方向でした。
しかもiTunesでは「リスナーが顧客」です。実はそれまでアーティストはレコード会社が顧客で、レコード会社は小売店が顧客でした。今は真の顧客が見えて、好意も批評もダイレクトにもらえます。音楽家には挑戦と収入、そして叱咤激励の門が開かれました。
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