覚悟しなければいけない……次の“金融ツナミ”に藤田正美の時事日想(1/2 ページ)

» 2011年09月26日 08時00分 公開
[藤田正美,Business Media 誠]

著者プロフィール:藤田正美

「ニューズウィーク日本版」元編集長。東京大学経済学部卒業後、「週刊東洋経済」の記者・編集者として14年間の経験を積む。1985年に「よりグローバルな視点」を求めて「ニューズウィーク日本版」創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年に同誌編集長、2001年〜2004年3月に同誌編集主幹を勤める。2004年4月からはフリーランスとして、インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテーターとして出演。ブログ「藤田正美の世の中まるごと“Observer”


 9月19日、米格付け会社S&P(スタンダード&プアーズ)は、イタリア国債の格付けを引き下げた。シングルAという格付けは日本よりも2段階低い。もしイタリアの国債がさらに値下がりし、金利が上昇すれば、それこそイタリア経済そのものが大きな打撃を受けるかもしれない。

 いまのところ格付け引き下げに対して市場は目立った反応をしていないが、S&Pはイタリア国債について「弱含み」としており、予断は許されない。イタリアでは2013年までに財政収支を均衡させる計画を打ち出しているが、その実現は困難というのがS&Pの見方だ。

特効薬がない

 ギリシャでも大変なのに、経済規模でその7倍もあるイタリアがもし債務不履行などという事態に陥ったら、それこそ世界経済への影響は計り知れない。リーマンショックどころではない金融大収縮が発生し、それに伴って企業活動も貿易も急落するだろう。先週末にかけて行われたG20やIMF・世界銀行総会の主要テーマは、まさにそうした事態をどう防ぐのかというところにあった。

 もっとも特効薬があるわけではない。資金繰りが厳しくなっている国に、融資をして「倒産」させないようにするしかない。もちろん豊かな国(ユーロ圏で言えばドイツやフランス、オランダなど)は「善意」だけで資金を融通するわけではない。ユーロという統一通貨(あるいは通貨圏)を守ることが、共通の利益だという認識があるからだ。もちろんせっせと自分たちが稼いだ外貨をなぜ「周辺諸国(peripheral countries)」に渡さなければいけないのかという国内の反発がある(だからドイツなどからはギリシャをユーロから放逐せよという声も聞こえてくる)。

 そのため支援国にとっては「支援の条件」が重要になる。韓国にIMF(国際通貨基金)が支援をしたときに、緊縮財政による財政再建を条件にしたのと同じことだ。ギリシャもドイツやフランス、ECB(欧州中央銀行)などから緊縮経済を要求され、それに応じて財政再建案を提出した。しかしその目標達成には失敗している。財政再建の手段は、歳出カットと増税につきるが(もちろん経済成長による税収増ということも考えられるが、それは言うほど簡単ではない)、公務員を削減したり、増税したりすれば、個人消費が減り、経済にとってはマイナスになる。その結果、税収も思ったようには上がらない。

 根本的にはそこで一国経済を立て直すためには、通貨を下落させるのが最も早道なのかもしれない。「財政破たん」は確かに世界経済に大激震をもたらすが、その結果、通貨が大幅に下落し、やがて国際競争力が増す。輸出品は価格で競争できるし、観光客も誘致できるだろう。サムスンに代表されるような韓国企業が急成長を遂げた大きな理由の1つは、ウォン安である(その意味では、円高対策は野田政権にとって喫緊の課題であるが、中間報告を見る限り即効性に乏しいように見える)。

 ギリシャの場合、この通貨(ドラクマ)安という選択が事実上封じられているところが普通の国とは違う点だ。財政政策はそれぞれの国で行い、通貨が縛られるというユーロ圏のもつ根本的な矛盾が露呈している。それぞれの国がそれぞれの通貨で国債を発行するのではなく、ユーロ債で資金調達をするとか、財政政策そのものを一本化するとかいう議論が出てくるのはそのためである。

       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.