融合は終わり。次に来るメディアは?中村伊知哉のもういっぺんイってみな!(2/4 ページ)

» 2011年11月01日 08時20分 公開
[中村伊知哉,@IT]

もう融合は終わったのだ

 NHKがNHKオンデマンドをスタートさせたのが2008年末。号砲から3年遅れだった。何せ2005年にはライブドアVS. フジサンケイ、楽天vsTBSという冬の陣・秋の陣があり、放送業界はITへのファイティングポーズをとり続けていたから、展開に遅れた面はあろう。

 その後、民放各局が徐々に番組を配信し、吉本興業やエイベックスなど番組制作側も積極的に攻め始めた。2009年にはTBSオンデマンドが通期黒字をみせ、日本テレビやフジテレビもネット事業が黒字を示すようになっている。ラジオのネット配信では、私も理事として関わったradikoが2010年、大阪での実験を皮切りにサービスを拡大している。

 2011年3月の震災では、この針がグッと動いた。広島の中学生がNHKの画面をiPhone経由でUstreamしたことを契機に、NHKも民放数社もテレビをネット配信。世界中が日本のテレビ番組をネットで見る状況が出現した。その後2週間で世界のUstreamユーザーが倍増したという。radikoも放送エリア外に配信し始めた。あの広島の中学生はいま、どうしているのだろう、表彰状を与えたい。

 だが、それから1〜2カ月を経て、番組内容が平常化するに伴い、ネット配信も中止、radikoのエリアも元通りになっている。簡単には進まない。9月には、NHKがネット同時配信する構想を打ち出したことに対し民放連が反対を表明するなど、まだ全体にヘッピリ感がぬぐえず推進力がみなぎらない。

 そりゃテレビのビジネスモデルは最高だったからね。ネットに進出したところでもうかるわけでもなく、非合法コンテンツの巣窟に手をさしのべることは信念が許さないさ。しかし、テレビが囲い込んで守る戦略は、もはや延命措置でさえなくなった。業界同士が内輪でにらみ合っているうちに、世界のメディア業界は再編を続け、スポンサーはCM出稿を抑えてネットや海外のサイトに広告費を振り向ける。

 もう融合は終わったのだ。場面は転換したのだ。PC、スマホ、タブレット、サイネージ。テレビ以外のマルチ・デバイスが定着する。地デジが整備され、メディア融合ネットワークが完成する。コンテンツからソーシャルへとネットサービスの主軸が移動する。デバイス、ネットワーク、サービスの3点全てで地殻変動が発生した。新しいステージでのサービス展開が必要だ。

2008年にサービスを開始した「NHKオンデマンド」(出典:NHK)

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