月間維持費1万円を実現せよ――「若者のクルマ離れ」を考える神尾寿の時事日想(3/3 ページ)

» 2012年01月11日 12時35分 公開
[神尾寿,Business Media 誠]
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まずは「若者がクルマに乗れる環境」を

 言うまでもなく自動車産業は経済の屋台骨であり、その裾野の広さから、いわゆる「モノ作り」の分野だけでなく、素材産業やIT産業など様々な産業への波及効果も大きい。日本の自動車産業は国際競争力も高いが、その自国内で“若年層がクルマに乗りにくい=新たなユーザー/利用スタイルを生み出せない”市場を作ってしまったことは何とも皮肉な話だ。自動車が今後も重要産業のひとつであることを鑑みれば、持続的な成長のためにも、若者がクルマに乗りやすい環境・市場の整備が必要である。

 その理想でいえば、今の維持費の高さを少しでも軽減することだ。自動車諸税の減税に加えて、ガソリン税の暫定税率の撤廃、利用実態に即した車検制度の見直しなどが必要だろう。また自動車の任意保険でも、リスク細分化保険をさらに広げる必要がある。ドライブレコーダーなど最新のIT機器・サービスを用いるなどすれば、若年層でも保険料負担が少なくなる商品開発は可能だ。そういった方向での規制緩和を推進する必要がある。トータルでのクルマ維持費軽減への取り組みが、若年層もクルマを所有しやすい環境整備につながる。

 もちろん、減税や規制緩和は一朝一夕では難しい。そのため短期〜中期的には、「若者向けのカーシェアリングサービス」が注目であり、必要と考えている。本コラムでもタイムズ24の「タイムズプラス」の取り組みなどを何度か取りあげているが、カーシェアリングは“クルマに乗らない人”だけでなく、“クルマに興味・関心はあるけれど、維持費の割高さから乗れない人”向けのサービスとしても大きなポテンシャルを持っている。すでにタイムズプラスでは月額基本料が無料の「学生プラン」を用意しているが、それよりさらに踏み込んだ若者向けの商品・サービス開発の余地があるだろう。自動車業界も一体となって、「カーシェアリングで、若者が日常的にクルマに乗る機会を作る」という発想が必要だ。

 「若者のクルマ離れ」とすべての責任を若い人たちに押しつけるのではなく、彼らの価値観・視座に立って、クルマに乗りやすい環境を作っていくこと。市場や文化を、時代に合わせて変えていくという姿勢が、今こそ自動車業界には重要である。

著者プロフィール:神尾 寿(かみお・ひさし)

IT専門誌の契約記者、大手携帯電話会社での新ビジネスの企画やマーケティング業務を経て、1999年にジャーナリストとして独立。ICT技術の進歩にフォーカスしながら、それがもたらすビジネスやサービス、社会への影響を多角的に取材している。得意分野はモバイルICT(携帯ビジネス)、自動車/ 交通ビジネス、非接触ICと電子マネー。現在はジャーナリストのほか、IRIコマース&テクノロジー社の客員研究員。2008年から日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員(COTY、2009年まで)、モバイル・プロジェクト・アワード選考委員などを務める。

最新刊は、『すべてのビジネスをスマホが変える』(徳間書店)。トヨタ自動車の豊田章男社長ほか、キーパーソンへのインタビューを中心にまとめた『TOYOTAビジネス革命 ユーザー・ディーラー・メーカーをつなぐ究極のかんばん方式』、本連載(時事日想)とITmedia プロフェッショナルモバイルに執筆した記事をまとめた『次世代モバイルストラテジー』(いずれもソフトバンククリエイティブ)も好評発売中。


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