抽象的に考えることの大切さとは(2/3 ページ)

» 2012年02月08日 08時00分 公開
[村山昇,INSIGHT NOW!]
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なぜモデル化が重要なのか

 ところで、私たちはなぜ物事をモデル化してとらえることが大事なのでしょうか。──それは、物事を個別具体的にとらえるレベルに留まっていると、永遠に個別具体的に処置することに追われるからです。

 それを簡単なモデルを使って説明しましょう。次に並べたのは英語の問題です。それぞれのカッコ内には前置詞が入りますが、それは何でしょう。1つ1つ答えてください。

  • a fly (      ) the ceiling(天井に止まったハエ)
  • a crack (     ) the wall(壁に入ったひび割れ)
  • a village (    ) the border(国境沿いの町)
  • a ring (    ) one’s little finger(小指にはめた指輪)
  • a dog (     ) a leash(ひもにつながれた犬)

 ……どうでしょう、各問に答えられましたか。正解は、すべて「on」です。

 ところで、私たちは前置詞「on」を「〜の上に」と習ってきました。習ってきたというか、暗記してきました。そうした暗記的なやり方で英語と接してきた人は、「天井に逆さまに止まった」とか「壁に入った」とか、「国境沿いの」などの言い表しに思考が発展しないので、それぞれの問題に戸惑ったことでしょう。そうして正解を見て、また1つ1つ、「on」の使い方を丸暗記していくことになります。

 これに対し、今、私の手元にある1冊の英和辞典『Eゲイト英和辞典』(ベネッセコーポレーション)の帯には、こんなコピーが記載されています──「on=『上に』ではない」と。さっそく、この辞書で「on」を引いてみます。すると、そこに載っていたのは、下のような図でした。

 「on」は本来、縦横・上下を問わず「何かに接触している」ことを示す前置詞だというのです。確かにこの図をイメージとして持っておくと、さまざまに「on」を使った展開ができます。

 この辞典は、その単語の持つ中核的な意味や機能を「コア」と呼び、それをイラストに書き起こして紙面に多数掲載しています。10個の末梢の意味を覚えるより、1つの「コア・イメージ」を頭に定着させた方が良いというのが、この辞書作りのコンセプトなのです。

 まさにここで出てきた「コア・イメージ」に基づく学習が、概念をモデル化して押さえることにほかなりません。

 私たちは、物事の抽象度を上げて大本の「一(いち)」をイメージなりモデルなりでとらえることができれば、それを10個にも100種類にも具体的に展開応用することができます。逆に言えば、モデル化によって「一」をとらえなければ、いつまでたっても末梢の10個を丸暗記することに努力し、100種類に振り回されることになります。1000にも種類が広がったら、もうお手上げでしょう。

 「一」をつかんだ者は、1000個だろうが、1000種類だろうが、原理原則を押さえているのでそれに対応がききます。そして、その「一」から落とし込んだ1000種類の応用は、具体的な末梢を必死になって丸暗記したときの1000種類とはまったく異なったものになるでしょう。真に新しい発想というのは、必ずと言っていいほど、抽象思考の川をさかのぼり、本質の「一」に触れて、再度、具体思考の川を下るというプロセスを経ているものです。

 「抽象的」という言葉は、何かネガティブなニュアンスで使われることが増えました。しかし本当は、抽象的に考えることはとても大事なことで、物事の余計な部分をそぎ落とし、その奥にある本質は何か、原理原則は何かと考えるのが抽象化能力なのです。従って、概念をモデル化するには、この抽象化能力をフル稼働させることになります。

 私たちは、日ごろから意識して、モデル化して考えることに努めることが大事です。物を売ることを超えて、物を売る仕組み(ビジネスモデル)を作ることが重要になってきているように、物事の知識量を増やすことを超えて、物事の仕組みをつかむ能力が重要性を増しているからです。

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