東大志望者への推薦図書から見える、「解ける」から「分かる」への重み郷好文の“うふふ”マーケティング(1/3 ページ)

» 2012年02月09日 08時00分 公開
[郷好文,Business Media 誠]

著者プロフィール:郷 好文

マーケティング・リサーチ、新規事業の開発、海外駐在を経て、1999年〜2008年までコンサルティングファームにてマネジメント・コンサルタントとして、事業戦略・マーケティング戦略など多数のプロジェクトに参画。2009年9月、株式会社ことばを設立。12月、異能のコンサルティング集団アンサー・コンサルティングLLPの設立とともに参画。コンサルタント・エッセイストの仕事に加えて、クリエイター支援・創作品販売の「utte(うって)」事業、ギャラリー&スペース「アートマルシェ神田」の運営に携わる。著書に『顧客視点の成長シナリオ』(ファーストプレス)など、印刷業界誌『プリバリ[印]』で「マーケティング価値校」を連載中。中小企業診断士。ブログ「cotoba


 東大を目指す人が読むべき図書リスト――そんなものがあると聞いた私は、好奇心と恐怖心がもりもりわいてきた。「東京大学の学科別専門別分類による推薦図書」と書かれた冊子を開けると、学科ごとに書籍名がずらり。

 最初に断っておくと、私は文系の情動的遺伝子で脳が生成されている。理系の理性は微塵(みじん)もない。しかし、だからこそあえて数学や物理の推薦図書を見てみた。『素粒子とは何か』『二重らせん』『宇宙と生命の起源』……これなら何とか。『ご冗談でしょう、ファインマンさん』は面白かった。『有限温度の物理学』『強光子場科学の最前線』となるとちょっと厳しいかも。おっと「東大を目指す」ではなく、あくまで東大の学科別の推薦本である。これを読んだから東大ではないので。

 推薦図書リストを制作した東京理学会社の代表、梅津英世さんはこう語る。

 「大学の難しい名前の学科は何をやっているか分からない。東大だけではなく、早稲田も慶応もさっぱりです。塾を運営する東京理学会社は、全員大学の非常勤講師や研究員で構成されています。大学界の内部にいるのに大学のことが分からない。それじゃあと思って学科の学問分野を知らせようと考えたのです。

 確かに学科名は謎である。教養学部の「地域文化研究学科」はまだしも「超域文化科学科」や「広域科学科」って……? 教育学部の「教育人間学」も具体的に何をするんだろう。文学部の「南欧語南欧文学」も何語か分からない。

 そこで塾の1000人にも及ぶ卒業生の力で、教養学部から医学部まで8学部の学科ごとに、東大などの学生や院生、指導教授らに依頼してそれぞれ1〜5冊の本を選んだ。ルールは「教科書的ではない本」「分野の世界観を感じる本」「前提知識がなくても読める本」。対象は高校生、高卒、東大学部1〜2年生。だから簡単じゃないが、社会人の知的好奇心もあおるようなタイトルが並んだ。仕事でヘルスケア業界に親しんだ私は医学部のリストに特にひかれた。

 「研究向けではなく、その分野の世界観であり価値観を網羅したかった」と語る梅津さんが学校長を務めるヴェリタスは塾である。東大さえ選択肢の1つでしかない頭脳を多数輩出し、優秀な中学生や高校生だけでなく、勉強を根本からやり直したい社会人もひき付ける。講師は東大や慶応、早稲田を卒業した選りすぐりばかり。給与が高いわけではない。その公教育の理念や方針にひかれてやってくるのだ。

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