この連載は『大往生したけりゃ医療とかかわるな』(幻冬舎)から抜粋、再編集したものです。
数百例の「自然死」を見届けてきた現役医師である著者の持論は、「死ぬのはがんに限る。ただし治療はせずに」。自分の死に時を自分で決めることを提案した画期的な書。
中村仁一氏(なかむら・じんいち)のプロフィール
1940年長野県生まれ。社会福祉法人老人ホーム「同和園」附属診療所所長、医師。京都大学医学部卒業。財団法人高雄病院院長、理事長を経て、2000年2月より現職。一方、「同治医学研究所」を設立、有料で「生き方相談」「健康相談」を行う。1985年10月より、京都仏教青年会(現・薄伽梵KYOTO)の協力のもとに、毎月「病院法話」を開催。医療と仏教連携の先駆けとなる。1996年4月より、市民グループ「自分の死を考える集い」を主宰。
最初に、私の考える「医療の鉄則」を掲げます。
一、死にゆく自然の過程を邪魔しない
一、死にゆく人間に無用の苦痛を与えてはならない
今、日本人の、医療に対する期待には凄(すご)いものがあります。
最近、耳にした話によると、ある大学病院の集中治療室で亡くなった人の家族が怒鳴り込んで来たといいます。
「大学病院だから大丈夫と信じて連れて来たのに、こともあろうに集中治療室で死なせるとはどういうこっちゃ」
本当に困ったことです。
次の設問は、私が主宰し、16年目に入った「自分の死を考える集い」(以後「集い」と略す)の参加者に、10年程前に行ったものです。15問中※いくつ○印がつくか、やってみてほしいと思います。
治療に関する思い込み度テスト(信頼度テストともいう)
(1)ちょっと具合が悪くなると、すぐ医者にかかる
(2)薬を飲まないことには病気はよくならない
(3)病名がつかないと不安
(4)医者にかかった以上、薬をもらわないことには気がすまない
(5)医者は病気のことなら何でもわかる
いくつ○がついたでしょうか。“奇人”“変人”の多い「集い」では、○印がゼロの参加者がかなりの数にのぼりました。流石(さすが)というべきでしょうか。
少し説明を加えます。
(1)ちょっと具合が悪くなると、すぐ医者にかかる
国民皆保険によりわずかな自己負担金で、手軽に医者にかかれる状況にあることや「素人判断で様子見していて、手遅れになったらどうするのか」という医療側の脅しが利いているせいで、ちょっと頭が痛いだけですぐCT検査を希望するような情勢が続いています。
原因療法があるため受診した方がいい病気は、そんなに多くはありません。病気を治す力の中心をなすものは、本人の自然治癒力(後で詳述)です。
したがって、薬は援助物資であり、医療者は援助者にすぎません。風邪など、原因の大部分がウイルスである場合は、安静、保温、栄養の下、発熱の助けを借りて自分で治すしかないのです。医者にかかったからといって早く治せるわけではありません。
かつて、四半世紀以上も前にアメリカ合衆国の権威ある学術専門誌「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン」の編集長、インゲルハイム氏が、「病気の80%は医者にかかる必要がない、かかった方がいいのが10%強、かかったために悪い結果になったのが10%弱」といいました。
その後、これに対する反論がないところからみると、これは現在も変わらないものと思われます。
だいたい、日本人は医者にかかりやすいとはいえ、あまりにホイホイと病院へ行きすぎるのです。元来、病院は「狭い」「臭い」「暗い」もの。最近は建て替えられて外観はきれいになり、かなり解決されました。しかし、依然として「汚い」「危ない」「恐ろしい」ところであることには変わりはありません。
だから、軽い病気で病院に行って、重い病気をお土産にもらって帰る可能性は充分にあるのです。
それゆえ、本来、病院は“いのちがけ”で行くところなのです。
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