JR東日本は三陸から“名誉ある撤退”を杉山淳一の時事日想(2/6 ページ)

» 2012年02月24日 08時01分 公開
[杉山淳一,Business Media 誠]

「BRT復旧方針」と地元の反発

 発端は2月7日に開かれたJR東日本清野智社長の記者会見だ。東日本大震災で不通になっている山田線と大船渡線の三陸沿岸区間についてバス転換を示唆した。線路の地盤をアスファルト道路とし、バス専用道とするアイデアだ。

 しかし、この報道に地元自治体は敏感に反応した。報道直後の9日には岩手県知事や沿線自治体の幹部がJR東日本本社を訪問し、鉄道による早期復旧を要請した。するとJR東日本社長は「あれは気仙沼線の話」とし、さらに「正式に提案したわけではない」と答えた。

 ところが、2月15日にJR東日本は4月1日付の新社長人事を発表すると、その席で次期社長の冨田哲郎氏(現副社長)はBRT(バス高速輸送システム)による復旧方針を示した。これも正式な提案ではない。そして同日、先にBRT化を提案されている気仙沼市長など地元関係者がJR東日本本社や国土交通省を訪れ、鉄道復旧の確約を要請している。

 うがった見方をすると、これはJR東日本から国に対する揺さぶりかもしれない。第三セクターであり赤字会社である三陸鉄道には国の予算で復興事業費が支援される。ところが、完全に民間の黒字会社であるJR東日本には、国が支援する法的根拠がないという。これはJR東日本からの「自力で何とかしろというならBRTの予算しか出せない。鉄道が必要というなら支援してほしい」というメッセージだ。震災復興という真剣真摯な話題で「うがった」だの「揺さぶり」だのという言葉は使いたくないけれど……。

 実は、山田線、大船渡線に対しては、国土交通省東北運輸局の呼びかけで「JR山田線復興調整会議」と「JR大船渡線復興調整会議」が設置されている。しかし、山田線に関しては2011年6月16日に第1回、同年11月24日に第2回が開催されて以降の動きがない。大船渡線に関しても同様で、同年7月19日に第1回、同年11月30日に第2回が開催されて以降、決定事項も次回開催日も公式発表がない。これ以上、問題がこじれるなら、国がきちんと調停しなくてはいけない。

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