ワタミ渡邊会長と田中防衛相にみる「おわびコミュニケーション能力」(2/2 ページ)

» 2012年02月29日 08時00分 公開
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さわやか路線と対極のスタイル

 その対極がドロ臭い「田吾作スタイル」です。鈴木宗男氏が選挙で泣きながら土下座したり、田んぼに革靴のまま入っていってお婆ちゃんと握手したりと、田舎政治家が白い目で見られながらやるアレですね。

 「史上最低・無能な防衛大臣」とも呼ばれている田中直紀氏は、防衛大臣就任以来、失言だ、おわびだ、バカだ、コーヒーだとけちょんけちょんです。でも、前任者やほかの省庁の大臣で、もっと短命だった人もいます。

 「田舎政治家だの田吾作だの、田舎者差別も大概にしろ!」とお叱りを受けるかと思います。しかしこれ、全部ほめ言葉です。

 「田吾作スタイル」とは、米国のプロレスで日本人レスラーが演じる、下駄ばきや地下足袋にニッカボッカや膝丈タイツという「悪役記号」のことです。

 グレート東郷や本当は日本人じゃないキラー・トーア・カマタとかの日系レスラーは、こうした無様な服装で反則の限りを尽くして結局正義の米国人レスラーに退治される、という役割を演じました。田吾作スタイルには、プロレスの予定構造をきっちり演じられなければできないスマートさが必要なのです。近年ではマサ・サイト―や谷津嘉章などの実力派が演じることで、「田吾作」は逆に実力者のスタイルにさらに逆転したりしていますが。

 鈴木氏も田中大臣も、そう見られることが分かっていて演じるスマートさを持っているのではと私は思っています。チラリとでも自身の頭の良さを見せたらこの演出は終わりです。田中大臣に至っては、説教する石破元防衛大臣の方に逆に悪い評判が立ってしまいました。すごい逆転ジャパニーズ・レッグロール・クラッチですよね(注:プロレスの逆転フォール技)。

 自分の正当性を主張したい、自分の言いわけをしたい、頭が良く見られたい、バカにされたくない、こうした気持ちがさわやか路線では致命傷になる恐れがあります。一方、最初からヨゴレを狙う田吾作路線は、バカにされてナンボ。いくら防衛の専門家を自称する人から攻撃されてもちっともこたえないどころか、攻撃した指摘自体の間違いが分かって逆に信頼を損なうなんていう逆転技ができたりします。

田中直紀氏の公式Webサイト

 そーなんです。田中直紀氏の岳父・故田中角栄氏こそ、こうした田吾作スタイルで権勢を誇り、「コンピュータ付きブルドーザー」というリングネームを冠された始祖だったのです。選挙や政局で負け続ける学級会政治家に比べ、かつての最強時代の自民党党人派のど真ん中、田中軍団と呼ばれた田中派の流れを汲んだ田中大臣や鈴木氏は、根っこが強いんでしょうね。動物としての生存能力と言うべきかもしれません。

 田中軍団の後継者・小沢一郎氏は最強自民党幹事長時代、都知事選で候補が落選した直後に辞任しました。参院選や地方選などの選挙で連戦連敗でも一切責任を取らず、党や政府要職に居座り続ける枝野氏ら学級会政治家にこうしたおわび能力はないのだと思います。

 田中角栄氏は「謝る時は深々と頭を下げ、それも一辺の言いわけも反論のそぶりも見せないでわびろ」と言ったそうです。誰にでも普段からペコペコしろというのではなく、ここぞという時、おわび能力の高い人。これはやはりコミュニケーション能力が極めて高い人と言えるでしょう。(増沢隆太)

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