アップルが秘密主義を徹底させている理由インサイド・アップル(3)(2/3 ページ)

» 2012年03月19日 08時00分 公開
[アダム・ラシンスキー,Business Media 誠]
インサイド・アップル』(早川書房)

 たいていアップルは従業員の自己規律に期待しているが、まれに彼らの社外での発言に注目することもある──たとえ向かいの店でビールを飲んでいるときにしろ。クパチーノの本社のすぐ近くに、内部者がふざけてIL‐7(インフィニット・ループ7番地、実際の社屋は存在しない)と呼ぶ店〈BJレストラン・醸造所〉がある。社内の噂では、平服のアップルの警備員がこの店のバーカウンターの近くをうろついていて、余計なことをしゃべった従業員が解雇されたことがあるらしい。実話か作り話かはわからないが、そこは重要ではない。従業員がその話をくり返していれば目的は達せられるのだ。

 ジョブズはかつて、社内の仕組みについて話さないことはウォルト・ディズニーから学んだと言った。元祖マジック・キングダムの作り手は、舞台裏の仕掛けに注目を集めすぎると、ディズニーの魔法と思われているものの力が弱まると考えた。加えて、ディズニーは厳しい守秘義務も課した。たとえば、1960年代にフロリダのウォルト・ディズニー・ワールドを計画していたときには、「プロジェクトX」担当の委員会を作った。ニール・ガブラーによる伝記の決定版『創造の狂気 ウォルト・ディズニー』(ダイヤモンド社)によると、新しいテーマパークの計画に関する内部のメモには通し番号が振られ、追跡できるようになっていたそうだ。

 情報が従業員からまちがった人の手に渡らないように圧力をかけるのはわかるが、アップルが少しちがうのは、その「まちがった人間」に会社の同僚も含まれることだ。元社員のことばを借りれば、「知らせない文化の究極形」である。チーム同士はわざと切り離される。互いに知らないうちに競争させるためであり、もっと大きな理由としては、自分の仕事に専念させるのがアップル流だからだ。これには副次効果もある。考えてみれば単純だが、互いに干渉し合わない社員には、自分の仕事に集中する時間ができるのだ。一般社員には政治ゲームに加わるだけの情報が与えられないので、社内のあるレベルより下になると、政治的にふるまいにくくなる。遮眼革をつけた競走馬のように、アップルの社員は脇目も振らず前進していく。

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