川口雅裕(かわぐち・まさひろ)
イニシアチブ・パートナーズ代表。京都大学教育学部卒業後、1988年にリクルートコスモス(現コスモスイニシア)入社。人事部門で組織人事・制度設計・労務管理・採用・教育研修などに携わったのち、経営企画室で広報(メディア対応・IR)および経営企画を担当。2003年より株式会社マングローブ取締役・関西支社長。2010年1月にイニシアチブ・パートナーズを設立。ブログ「関西の人事コンサルタントのブログ」
政府が先日発表したデータによれば、2010年に大学や専門学校へ進学した人のうち、卒業時に就職が見つからなかった人が約14万人、就職してもすでに離職した人が約20万人になるという。合わせると34万人で、大学院などへの進学者や中退した人を除く70万人を母数とすれば、48%が最初の就職に失敗しているという結果だ(早期に離職すれば失敗で、続けていれば成功と一概には言えないが……)。
2割が就職できず、3割が早くに辞めてしまうという原因は、中高年優遇の労働行政(解雇など雇用規制の厳しさに加えて、定年延長などのしわ寄せが学生に行っている)にもあるし、定着させられない企業の人事管理にもあると思うが、学校が行う就職指導の内容にもその原因はあるだろう。その就職指導が学生の思考を停止させ、誤った活動と選択をさせているのではないかと、気になるのは以下の3点だ。
1つ目は「自己分析」である。志向やパーソナリティの特徴、長所・改善点など自分の内面を見つめることによって、適した職業や職種が見つけやすくなるという理屈で、これが就職活動のスタートだというのがセオリーになっている。「自己分析シート」「自己分析ツール」はたくさん販売されているし、大学でも自己分析に関する講座やセミナーが盛んに行われる。
しかし、多くの職業人が実感するように、適性とは仕事を通して顧客や上司や仕事仲間に気付かされるものである。言われてやってみたら面白く、続けているうちにそれが意外にも自分の専門分野・得意技になってしまった、というような話はたくさんある。成果が出たとか、顧客や職場の反応が良かったとか、やっていて楽しく没頭できるとか、そんな経験をして初めて、その仕事が自分に適しているのではないかと感じるものだ。もし、自己分析によって、適した職業や会社が分かるなどと教えているのなら、それは「自分の可能性について思考するな」と言っているのと同じである。
2つ目は「キャリアデザイン」だ。もちろん、「とりあえず、どこでも会社に入れればいいや」というよりは、自分でやりたい仕事や身に付けたい能力や就きたいポジションなどをイメージし、それに至る道を描くほうが、社会に出るに当たってマジメな姿勢ではある。また、計画があると節目節目で振り返りや修正をしやすいから、意思ある職業人生を送れそうだ。
しかしその前に、「デザインした通りにならない」ことを知らねばならない。キャリアデザインは、そもそも終身雇用・年功序列の日本的処遇が崩れつつあり、会社が面倒を見てくれなくなったので、自分で将来を創造する必要があるという考え方に基づく。
が、終身雇用・年功序列は過去のものという認識は間違いで、解雇を始めとする労働規制は何も変わっていないし、多くの会社で中高年が幅をきかせ、いまだに定期昇給も普通に行われているのだから処遇は年功的なのである。転職リスクも非常に高いままだ。正社員とは今も昔も変わらず「就社」した者なのであり、異動・出向・移籍・転勤など会社の命令に従わざるを得ない。
もしここの理解がないままにキャリアを描かせているなら、子どもが「将来の夢はサッカー選手」と言ったのに「いいねえ」と返すのと似たようなレベルになってしまう。
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