「ニューズウィーク日本版」元編集長。東京大学経済学部卒業後、「週刊東洋経済」の記者・編集者として14年間の経験を積む。1985年に「よりグローバルな視点」を求めて「ニューズウィーク日本版」創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年に同誌編集長、2001年〜2004年3月に同誌編集主幹を勤める。2004年4月からはフリーランスとして、インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテーターとして出演。ブログ「藤田正美の世の中まるごと“Observer”」
今週いっぱいで消費税増税法案を閣議決定に持ち込む。それが野田首相の「命をかけた」戦いの第一歩なのだそうだ。増税はどう考えても選挙には不利な材料だから、命をかけるのは野田首相だけでなく、ほかの国会議員もいっしょかもしれない。
そうは言っても、消費税を引き上げることについて多くの国民は理解していると思う。現在の財政状態を考えれば、増税は避けられないし、上げるとすれば一番大きいのは消費税だろう。法人税は上げるというよりむしろ下げる方向にある。所得税を上げるとすれば、要するに高額所得者の税率を上げるかどうかという議論だ。
所得税の最高税率は現在40%だ。住民税の最高税率は10%だから、合わせて50%ということになる。その昔は所得税が75%、住民税が18%という時もある。高額所得者は93%も税金を払っていた。
面白い数字がある。BBCのリポートによると、英国の2010〜2011年の税収のうち3分の1以上は所得税(1530億ポンド)が占め、日本の消費税にあたる付加価値税(840億ポンド)よりもはるかに大きい。さらにトップ1%の高額所得者は所得税収入の27%を払っていた。それに対して納税者の下から半分の人が払った所得税は全体の11%にすぎない(ちなみに英国の最高税率は50%だが、オズボーン財務相は45%に引き下げるようだ)。
この数字を見ると、最高税率を引き上げる(累進カーブを立てる)ことによって、税収は増えるということになるだろう。野田首相はこの問題については「検討する」と答えているが、所得格差が大きくなっている時に、税による所得再分配機能を高めるという選択は合理的なのかもしれない。
もちろん最高税率を上げても、それでまかなえる金額は知れている。所得税による歳入は2011年度で約13兆5000億円程度。その半分を超える7兆円を最高税率40%の人たちが負担しているとしよう。その人たちの税率を例えば50%にしたら、増える税収は7兆円の25%である。つまり1兆8000億円程度。消費税でいえば1%分にも満たない。逆に言えば、累進カーブを立てることによる効果は小さく、もし政策として採用するならそれは国会議員の定数削減と同じく、「姿勢の問題」ということである。
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