近年、企業がアニメーションを広告に活用する例が増えている。直近では東京ディズニーリゾートのアニメCMが話題になっているが、ドラえもんやサザエさんといった既存のキャラクターやオリジナルキャラクターで商品をアピールするだけでなく、大成建設のテレビCMや富士重工業の『放課後のプレアデス』のように、特定の商品の宣伝ではなく、ブランディングを意図したアニメーション広告も制作されるようになっている。
そんな中、アニメーションのノウハウを、企業と生活者の間のコミュニケーションに活用することを目的に、2011年4月1日に誕生した会社がSTEVE N' STEVEN(スティーブンスティーブン)だ。博報堂のクリエイティブディレクター古田彰一氏と、『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』『東のエデン』などの作品で知られるアニメーション映画監督の神山健治氏が共同CEOに就いたことでも話題となった。
発足から1年、NTTドコモの「Xi(クロッシィ)」のCMや、『009 RE:CYBORG』のキャラクターを活用したスタッフサービスのCMなどを制作してきた同社。古田氏と神山氏、石井朋彦プロデューサーの3人に、アニメーション業界と広告業界の提携から何が生まれたのか尋ねた。
1967年生まれ。1991年博報堂に入社後、クリエイティブディレクターとしてテレビCMや大型キャンペーンを手掛け、TCC賞(2度)、クリエイター・オブ・ザ・イヤー・メダリスト、広告ギャラクシー賞、ニューヨークADC賞、TCC新人賞、広告批評年間ベスト(2度)、JR東日本交通広告賞ゴールド(3度)などを受賞。2008年からクリエイティブコンサルタントとしての活動を経て、2011年4月にスティーブンスティーブンを設立、神山健治氏と共同CEOに就任する。Twitter:@sfuruta。
1966年生まれ。背景美術スタッフとしてキャリアをスタート。『AKIRA』や『魔女の宅急便』などに背景として参加。Production I.Gのテレビシリーズ『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』『攻殻機動隊S.A.C. 2nd GIG』などを監督。『東のエデン』では、初の完全オリジナル作品として原作・脚本・監督を手掛ける。最新作「009 RE:CYBORG』が2012年秋公開予定。Twitter:@kixyuubann。
1977年生まれ。1999年スタジオジブリ入社。鈴木敏夫氏に師事し『千と千尋の神隠し』、『猫の恩返し』、『ハウルの動く城』でプロデューサー補、『ゲド戦記』で制作を担当。2006年、Production I.Gへ移り、押井守監督『スカイ・クロラ The Sky Crawlers』『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊2.0』、神山健治監督の『東のエデン』を『攻殻機動隊S.A.C.SOLID STATE SOCIETY 3D』をプロデュース。現在、神山健治監督最新作『009 RE:CYBORG』(2012年秋公開)を制作中。Twitter:@icitomohiko
――まずスティーブンスティーブンがどうして生まれたのかということから教えてください。
古田 神山監督と私は最初、Twitterをきっかけにして親密な関係になりました。それぞれ広告業界とアニメーション業界にいるわけですが、「ワクワクするモノを世の中の届ける仕事をしているはずなのに、最近、現場に閉そく感が漂っていたり、振り切ったモノを作れていなかったりしているのではないか」という感覚をお互い持っていたんです。
広告業界サイドから言うと、不景気になると企業はコスト削減の一環で広告プロモーション予算を削るわけです。ただ、「コストは削りながらも、成果は求める」という、難解なミッションが増えてくるわけですね。ひと言でいうと、すべての広告コミュニケーション活動が“効率”を求めるようになってきています。
私はクリエイティブディレクターなのですが、クリエイティブがやらないといけないことの第一義は“効果”です。広告を作る時には、みんながこの商品を使ったらどれだけ幸せになるか、どれだけ社会が良くなるかという“効果”を考えなくてはなりません。
でも時代が“効率”に傾いていく中で、いろんな限界に直面していました。その中で神山監督と出会い、次に神山さんの紹介で石井プロデューサーと出会いました。話してみると、現状の社会や経済の停滞に関する意識の持ち方が非常に似ていました。
私はアニメーション業界を誤解していて、制作資金を集めるのは大変だけど、一度お金を集めてしまえばクリエイターがある程度自由に作れるものだと思っていました。しかし、お話ししてみると全然違っていて、いろんな条件や制約を突破しながらいいものを作るということで、そのあたりの心持ちもシンクロしたんですね。
私たち広告業界は、クライアントビジネスです。クライアントがどうやったら良い広告コミュニケーションを作れるのかをデザインする仕事で、生活者を“顧客”としてとらえるノウハウを磨き続けてきました。
一方、アニメーション業界は、作品でファンとつながるビジネスであり、生活者を“観客”としてとらえるノウハウを磨き続けてきたと言えます。
その時、「そもそもこの2つの業界がなぜ分かれている必要があるのかな?」と思ったんです。1人のお客さんを相手にしているのに、お客さんの行動動線をどこかで切って、顧客としてとらえるということと、観客としてとらえるということを分けている。
それは産業側の都合です。映画を見る楽しさと、コンビニで買い物をする楽しさが別の楽しさとして分断されてしまっていた。ここをシームレスにつなげることが、神山さんたちと組むことで実現できるんじゃないかと思ったことが始まりです。
また、もともとクライアントや広告会社のクリエイターからアニメーション業界に対する需要はありました。
それには2つの側面があります。1つはアニメーションという表現手段が企業のコミュニケーション活動の中で大きな差別化要因になるということです。特に神山監督や『新世紀エヴァンゲリオン』の庵野秀明監督、スタジオジブリのようなハイエンドな作品はビッグタレントに匹敵するんじゃないかという話は以前からあったのですが、後述する諸事情からできなかったということがあります。
もう1つは、クライアントやクリエイターの中にアニメファンが増えてきたというのが大きいです。上の世代は「アニメは子どものものだろ」という意識だったし、そのちょっと下だと「アニメはオタクのものだろ」と言っていたのが随分事情が変わってきています。企業の中でも「アニメーションを活用することで課題解決できるのではないか」という考え、「特にソリューションに対する柔軟性が高い表現なんじゃないか」という知見が生まれてきています。
そういう人たちが最前線に出てきていることが追い風になっています。『宇宙戦艦ヤマト』や『機動戦士ガンダム』を見て育ってきた世代から変わってきていますね。
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