自治体が情報公開しなければならないワケ藤田正美の時事日想(2/3 ページ)

» 2012年04月02日 07時59分 公開
[藤田正美,Business Media 誠]

話し合いのための情報公開を

 自治体が抱える最大の問題は、今、おカネがないということではない。将来にわたっておカネがないということである。過去20年間、「将来は何とかなる」と思って(国自体もそう思ってきた)借金をし、「投資」という名のバラまきをやってきたが、それが限界にきている。そして困ったことに国と同じように自治体も人口減少という難題に直面している。税収は減るし、これまで地域を担ってきた人々が高齢化しても、後継者や年寄りの面倒をみる人がいない。

 だからあらゆる道路や橋などを維持するわけにはいかないのである。つまり優先順位をつけて、線引きをしなければならない。それを誰がやるのか。もしお役所が住民に実態を詳しく説明することもなく線を引けば、反発を食うに決まっている。目の前の橋がなくなって、遠回りするようになると言われたら、誰だって不満を言うだろう。

 たとえそれが住民エゴと言われようと、そこを否定することはできない。なぜならその人たちも住民として権利を主張することができるからだ。それを解決するには、お役所が情報をできるだけ公開して、たとえ最初の説明会が大荒れになろうとも、話し合いを続けて一定の合意を得るという姿勢で臨むしかない。

 その集会で話し合われるのは、インフラの整備や廃止という目の前の問題だけではない。自分たちが住んでいる町や村を将来にわたってどのようにしていくのかというビジョンも大きなテーマなのである。なぜなら、橋や道路がどうなるかで、いま住んでいる場所に住み続けることができるかどうかが大きく左右されるからだ。極端な話、1軒の家のために新たに橋をかけることはしないかもしれないが、1軒の家のために今ある橋を廃止するかどうかは大問題になる。

 だから全体の状況を最も把握しているお役所は、そういった情報を公開して、住民たちが徹底的に討論して優先順位を付けるしか方法がない。それは地方議会の役割という主張もできるだろうが、多くの地方議会は利害の錯綜する問題を解決する能力を持ち合わせていないのが実態だと思う。ある日本海側の町で、町役場の中堅幹部がこんなことを言っていた。「年に(定例議会で)20日あまりしか役場に出てこない議員さんたちが、我々と議論したって勝てません」

 その町はいわゆる原発マネーで財政が豊かだからまだしも、財政が苦しければ、やはり選択しなければならず、選択すれば必ずそこからもれた人々の怨嗟が生まれる。これは人口が減るということの当然の帰結でもある。

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