アップルが成功したのは「Why?」があったから――元MS中島聡が描く未来社会の姿New Order ポスト・ジョブズ時代の新ルール(2/4 ページ)

» 2012年04月04日 08時01分 公開
[取材・文/瀬戸友子 撮影/竹井俊晴,エンジニアtype]

ソーシャルマーケティングで重要な「共感」は「Why?」から生まれる

「ソーシャルマーケティングの時代、『Why?』がない企業はユーザーから見放されてしまいかねない」(中島氏)

中島 僕もずっと考えてきたんですが、ソーシャルマーケティングの研究から見えてきたことがあります。ソーシャルマーケティング、つまり口コミで成功するには、ユーザーがその商品にほれてくれないといけない。今や良い物を安く提供するのは当たり前で、それ以外の何かが必要なんです。

 その中で、多くの人がアップル製品にほれる理由は「Why?」にあるんだ、ということを、サイモン・シネック(編集部注:『Start with Why』の著者。作家、マーケティングコンサルタントとして有名)が2009年7月に行われた『TED』でスピーチしていました(外部リンク)

 なぜスティーブ・ジョブズがあれほど頑張るのか。彼の思いは必ずしも明確に語られてはいないけれど、明らかにお金のためではないですよね。iTunes Storeにしても、「オレたちは違法ダウンロードと戦う。そしてみんなが気軽に音楽を楽しめるようにしたい」という熱い思いがあった。

 ユーザーの支持を得たのは、単に音楽を99セントで買えるようになったからではなくて、この「Why?」の部分にみんなが共感したからだ、と。「Why?」に共鳴した時、激しい口コミが生まれるんです。

 アップルが成功している理由はまさにここにあって、だからこそほかの企業は追いつけないのではないでしょうか。

 アップルを研究している企業は多いはずです。頑張って真似しているのに、うまくいかないのは、「Why?」の部分が違うからです。

 アップルに追いつきたい、業績を黒字にしたいという動機は、不純とまでは言わないけれど、ユーザーからすると共感できない。きれいな言葉を並べてみても、実は自社の雇用を守ることが第一の目的だったら、いかに良い物を作っても口コミにはつながりません。

 おそらくスティーブ・ジョブズは、「Why?」が大切なんて意識もしてなかったと思いますよ。口先ではなく、デジタル時代のより良いライフスタイルを作ろうと本気で信じて突き進んできたから、共感を集めることができたんです。

 実はソニーにしても、ホンダにしても、商品にほれ込んでいる熱烈なファンがいた時代があった。そこにはきっと「Why?」が存在したんです。

 その時代以上に、今後ますますソーシャルマーケティングが重要になってきます。商品にほれ込んで、「みんなに使ってほしい」と思ってくれる人たちこそが、会社の財産になる。そんなファンをどれだけ持てるかが、これからのビジネスを育てていく最も大切なカギになります。

 こうなると、そもそもなぜ会社が存在するのか、根本的な「Why?」から問い直す必要がある。そうでなければ、なかなか次の新しいフェーズに移っていけないでしょう。

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