――第3フェーズに移るにあたって、個人ができることとは何でしょうか?
中島 以前からユーザーは、「Why?」の部分を敏感に感じ取っていました。ネットワークの普及で、それがより鮮明に見えるようになった。企業が何かおかしな動きをすれば、一気に広がってしまうのです。
スターバックスCEOのハワード・シュルツは、単においしいコーヒーを提供することではなく、人と人とのコミュニケーションの場を作ることをビジョンに掲げています。そこで彼らは、適正な労働条件でのコーヒー豆の栽培に取り組んでいます。
大量生産時代には、裏で労働者が搾取されようが、価格が安い方が良かった。でもユーザーは、それにNoを突きつけ始めた。「良いものを安く」だけではなく、いかにユーザーに納得してもらうか。一部の企業は、すでに一歩先の次元を進んでいます。
こういう時代には、波風立てずに任期を終えることだけを考えているサラリーマン経営者ではやっていけない。今までの踏襲なんか関係ない、自分はこういうものを作りたいんだと、強い思いを持ったビジョナリストが必要です。
ただ、出る杭は打たれがちな日本社会で、そういう人をどうやって生み出していくのかは、大きな課題でしょう。
日本全体の問題だと感じるのは、効率的に正解を出すのは得意だけど、答えがなければ進めないということ。でも世の中の多くのことは答えなんて分からないし、自分で問いを立てて試行錯誤しながら見つけていくしかないんですよ。どうしたらアップルになれるか、サムスンに勝てるかというのも、実は問い自体が間違っているのかもしれない。
例えば「iPadに対抗するタブレットを作りたい」と言われても、僕は絶対に投資しませんよ。でも、「デジタルを活用した教育環境を作りたい。そのためにタブレットが必要だ」と言われれば、興味を持つと思う。それによって世の中が変わるかもしれないと思えば、ワクワクするじゃないですか。もちろん「Why?」だけでは投資できませんが、そこに共感できれば、少なくとも話は聞こうとするでしょう。
次のフェーズには、「新しい個人商店の時代」が来るかもしれないと思うんです。自分のビジョンを達成することが動機だから、別に会社を大きくする必要はないし、上場にも興味はない。そういう小さな会社や個人がたくさん出てきて、何か面白いことをやって、みんなが共感する。ソフトウエアエンジニアは、まさにそれができる仕事ですよね。
だから、ビジョンを持っている人は今すぐ自分で始めるべきだし、共感できる経営者に出会ったら、その人に付いていってサポートするべき。僕らひとりひとりが能動的に行動していかないと、いつまで経っても次のステージに進めませんから。
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