鉄道からバス転換で浮かび上がる、ローカル線の現実杉山淳一の時事日想(3/5 ページ)

» 2012年04月13日 08時01分 公開
[杉山淳一,Business Media 誠]

 被災する前、岩泉線の1日当たりの利用者数は、JR東日本67路線のうち最下位の46人。66位は只見線の388人なので、岩泉線の利用者はケタ違いの少なさだ。JRグループ全体でも最下位。この3月に廃止となった長野電鉄屋代線の10分の1程度である。

 それでも運行が続けられた岩泉線は“奇跡の存在”ともいえる。運行を維持できた理由は、母体のJR東日本に体力があったからにほかならない。前述したように全体的な黒字があり、私が株主だった頃も「赤字線の整理」は株主提案になかったと記憶している。岩泉線の存在意義は「企業の社会貢献活動の一環」という意味合いが強い。

 例えば、JR東日本は鉄道林の保存事業に着手している。風雪から線路を保護しており、現在は役割を終えた鉄道林の再整備は国土の環境維持に貢献するという。予算は20年間で約210億円。これに対して岩泉線の維持は本業の鉄道事業であるし、社会貢献という意味でも年間2億5700万円の費用は許容範囲だったといえよう。

論点は安全確保の復旧費用

 さて、岩泉線のバス転換の理由として「安全運行のための復旧費用が130億円必要」と「JR東日本でもっとも利用者が少なく、運行しても赤字」が挙げられている。ただし上記のとおり、後者の理由はこれまでも存在し、許容されてきた。となれば、最大の要因は約130億円の復旧、安全対策費用である。年間2億5700万円は許容できるけれど、一時金の130億円は許容できない、ということなのだ。逆にいうと、130億円を誰かが負担してくれるなら、岩泉線バス転換は撤回してもらえそうである。

 JR東日本のバス転換の発表に対し、地元は当然ながら反対している。なにしろ並行道路の事情は全く変わっていない。トンネルは普通車でもすれ違えない。トンネルを迂回できる旧道も冬季は閉鎖されてしまう。

 岩手県知事は「鉄道廃止を前提とした話し合いには応じられない」とし、JR東日本が説明する「復旧費用130億円」を独自に検証すると表明している。これも深読みすれば「鉄道復旧の話し合いには応じる」となろう。論点は復旧費用を誰が負担するか、である。

これだけの赤字で運行する意味はあった? (出典:JR東日本)

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