鉄道からバス転換で浮かび上がる、ローカル線の現実杉山淳一の時事日想(2/5 ページ)

» 2012年04月13日 08時01分 公開
[杉山淳一,Business Media 誠]

乗車率が悪くても走らせた意味

 JR東日本が岩泉線の復旧を「断念」し、バス代行としたい理由は「安全運行のための復旧費用が130億円必要」と「JR東日本でもっとも利用者が少なく、運行しても赤字」だからである。報道では「赤字路線の運行は株主に説明がつかない」という発言もあったようだ。もっともらしい意見だが、鉄道は公器であり、地方ネットワークの維持運営も企業の社会的責任である。

岩泉線復旧費用には130億円の費用が必要(出典:JR東日本)

 グループ全体で黒字であり、配当もきちんと実施されている以上、いくつかの路線で赤字であっても、それを不服とする株主は少ないだろう。もちろんすべての株主は利益を望んでいるが、社会的責任に価値を見出す株主だっているはずだ。

 ちなみに私もかつては1株のみを保有していた株主。上場当時の配当は3000円だったが、保有していたときは5000円に増えていた。それだけで満足していた。だから、赤字路線を挙げて「廃止してもっと配当を寄越せ」とは思わなかった。

 もっとも、ビジネスとしてみれば、1日平均わずか46人の利用者、毎年2億5700万円の赤字路線を維持してきたほうが興味深い。

岩泉線の利用者は減る一方で、復旧させてもさらに減ると思われる(出典:JR東日本)

 実は岩泉線はこれまで何度も廃止の動きがあった。岩泉線は戦時下にレンガの原料となる粘土を輸送するために建設された。つまり、もともと旅客利益を期待する路線ではなかった。戦後の輸送特需がなくなって、存在意義が薄れ、赤字がかさんだ。国鉄再建計画によって1984(昭和59)年に廃止対象路線となった。

 しかし、並行する国道の押角峠が急カーブの連続で、トンネルも普通車のすれ違いが困難。大型車は通行できないという理由で廃止対象から除外された。1996年にJR東日本は赤字を理由にバス転換を打診したものの、地元の強い反対で実現に至らなかったという。

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