インタビュー
» 2012年04月13日 11時00分 公開

ライトノベルで農業を描いてみたらこうなった――『のうりん』著者インタビュー(2/3 ページ)

[堀内彰宏,Business Media 誠]

ライトノベルファンに読ませる農業高校物語を書きたかった

――農業高校が舞台のマンガ『銀の匙』や農業大学が舞台のマンガ『もやしもん』は舞台もキャラクターも比較的現実に即していますが、『のうりん』は舞台は現実に即しているものの、キャラクターはかなりデフォルメしていますね。

白鳥 ライトノベルとしての面白さを追求したからですね。主戦場をどこに持っていくかということで、私は農業関係者に読ませるライトノベルを書くのではなく、ライトノベルファンに読ませる農業高校物語を書きたかったので、ライトノベルとしての面白さを外すことは絶対にできなかったんです。そういう意味で、表現をオーバーにしたり、パロディを入れたりということは外せませんでした。

NOL48なる、どこかで聞いたようなグループも登場する(イラスト:切符)

――フォントを大きくして強調したり、本文とイラストを連動させたりといったことは、編集との連携も必要ですよね。

小原 基本的に白鳥さんの発案で、「こういうのを試してみたい」というものがあったので、「技術的に可能そうなところはやってみよう」ということになりました。「本当にそこまでやる?」みたいなところもありましたが、市場の反応も良かったので「やってよかったな」と思いました。

 白鳥さんは基本的に改ページやイラストの位置を指定した状態で原稿を送っていただけるので、基本的にそれを踏襲する形で編集しています。ほかのライトノベルと比べて、著者サイドの苦労は並大抵ではないと思います。

白鳥 修正作業はエネルギーは使うのですが、パズルみたいで面白いんですよ。ページをパラッとめくってイラストがある作品はほかにもあるのですが、こだわる作品が少ないのは私にとっては逆に不思議ですね。作家とイラストレーターと編集が、バラバラで仕事をしていることに1つの要因があるのでしょうが。

 参考にしたのはマンガです。ライトノベルを読まずにマンガを読んでいる人はいくらでもいますし、ライトノベルを読む人はだいたいマンガを読んでいるでしょうから、マンガみたいな表現は受け入れられるだろうと。ページをめくったらオチがあるギャグ漫画の手法を取り入れた感じです。

――ちょっと毛色の違うライトノベルだと思うですが、GA文庫としてはどういう風に売り出したのですか。

小原 非常に注目されている作品で、先日も「ラノベ好き書店員大賞」で1位をいただきました。また、ネットとの親和性も高いですね。

 本作の場合、とにかく読んでさえもらえれば、多くの人に面白さを分かってもらえるだろう、と思っていました。そこで、読んでもらうまでのハードルを下げるために、1巻は試読版をネットで公開しています。

 そこから口コミで伸びていった部分もあったと思っていて、1巻の売れ方は普通のライトノベルの売れ方と違っていました。普通は発売後1週間の売れ方から勢いが見えてくるのですが、『のうりん』はその後からの伸びが大きかったですね。ネットでの評判を見たり、試読版を読んで面白いと思ったりして買ってくれた人が多かったのではないでしょうか。

――試読版はどのくらい読まれたのですか。

小原 1巻発売時は、刊行後2週間で7000以上のアクセスがありましたね。ちなみに1巻は300ページほどなのですが、試読版で100ページくらい読めます(笑)。

白鳥 試読版の最後にイラスト芸があるのですが、そこまで見せたかったのです。

農業関係者からメールが来る

――『のうりん』の反応はどのようなものでしたか。

白鳥 ネットでの反応については、私は怖くて見ないんですよ。友達がいいものだけメールで送ってくれるのを読むほか、アマゾンの書評くらいは読むのですが、当初はボコボコにけなされるかと思いきや、意外と好意的な反応だったので驚きました。農業高校の先生や生徒にお渡しした時も喜んでもらえて、「アリなんじゃないの」という感じだったので良かったと思いました。

 取材先の農業高校の校長先生は非常に喜んでいらっしゃいました。PTAの集会で、お母さんたちに配るんですね。農業高校の元校長先生だった市教育委員会の教育長も、「こんなのが出てるから」と市役所の部長クラスに配るわけですよ。だから、喜んでいらっしゃるんですよね。読むと、自分たちの教え子のやっていることが出ているのが分かるので。生徒たちも喜んでいるということで、うれしくてうれしくてという感じですね。

 農業高校は新聞などで取り上げられることはあるのですが、子どもたちが読むような物語の中に出てくる、ということはなかなかないですからね。

 その農業高校は岐阜県の中でも入試倍率が高いところなので、「これで志願者が増えれば」という学校ではないんですね。先生方の努力で良い学校であるという話は広まっているので。私の取材に応えたからといって、給料が上がるわけではないですし、むしろ通常業務の時間が圧迫されるので、迷惑なはずなんです。それなのに時間を空けてくださるのは、本当に喜んでやってくださっているということと、生徒のモチベーションが上がるからということなんでしょうね。

 最近ブログ(「のうりんのぶろぐ」)を始めたのですが、プロフィールに書いているメールアドレス宛てに結構メールが来ます。多くは農業高校の生徒や農協の人から来るのですが、「こういうのも取り上げたらどうか」と言っていただけたりします。

 例えば、群馬県の農業高校に通う生徒からのメールでは「私は実験動物を扱っています。実験動物というのは、いずれ殺してしまう動物ではありますが、私はこういう考えでやっています」とありました。生命倫理の部分は私も知りたかったことなので、「ありがとうございます。ぜひ教えてください」と返信しました。

 テレビ局の人から「私は岐阜県のこういうところでこういう取材をして見せてもらったので、白鳥さんも行ったらどうですか」というメールもいただいたこともあります。ですから、最近はメールで読者から取材できるようにもなってきていて、農業高校に進学した人に「どんな感じ?」と聞いたりもしています。

――なぜブログを始めたのですか。

白鳥 正直、『のうりん』ではウソも書いているんです。分かってウソを書いているのですが、「分かってウソを書いているよ」としっかり読者にお伝えしたかったということがあります。

 また、取材の成果を発表する場がないと、作品に無理やり入れそうになるんです。ブログで書けるという逃げ道を作っておけば、そこで発散できるので、作品では詳しく書かなくてもいいとブレーキになるんです。基本的にはアフターサービスのつもりでやっています。

――過去の作品でも『らじかるエレメンツ』ではスポーツチャンバラ、『蒼海ガールズ!』では帆船と、取材をもとに物語を作られていますよね。

白鳥 取材したというか、自分の経験からひねり出して書いていたんですね。スポーツチャンバラをやったからスポーツチャンバラの話を書いたとか、帆船小説が好きだったから帆船の話を書いたとか。

 そして作品が終わった時、自分の中に何も残っていなかったんです。からっぽになってしまった。「こんなことをしていたら作家としての寿命はすぐに終わってしまう。ならば自分の中に新しいものを取り入れつつ生産するサイクルを生み出そう」と思って、全然知らない農業を取材することにしました。私としては、こうした取材のサイクルを確立できたことが一番の収穫だと思っています。

――『のうりん』の読者層を教えてください。

小原 ちょっと詳しくは分からないですね。GA文庫自体、本来は中高生向けに出しているはずなのですが、若干年齢層が高めになっていて、20代半ば以降の人も多くなっています。

白鳥 ブログからメールをいただく方も20〜40代が多いですね。男女比は8:2くらい。以前、キャラクター人気投票をやったことがあるのですが、その時も8:2くらいでしたね。

 もともとは完全に男性向けを意識していて、年代も中高生から私と同じくらいの30歳前後と見込んでいたのですが。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

アクセスランキング
  • 本日
  • 週間

    Digital Business Days

    - PR -