財政再建か国民の生活か、フランス・ギリシャの選挙の意味藤田正美の時事日想(1/2 ページ)

» 2012年05月07日 07時59分 公開
[藤田正美,Business Media 誠]

著者プロフィール:藤田正美

「ニューズウィーク日本版」元編集長。東京大学経済学部卒業後、「週刊東洋経済」の記者・編集者として14年間の経験を積む。1985年に「よりグローバルな視点」を求めて「ニューズウィーク日本版」創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年に同誌編集長、2001年〜2004年3月に同誌編集主幹を勤める。2004年4月からはフリーランスとして、インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテーターとして出演。ブログ「藤田正美の世の中まるごと“Observer”


 5月6日、欧州ではEU(欧州連合)やユーロ圏の行方を占う2つの大きな選挙が行われた。フランスの大統領選挙とギリシャの議会選挙である。結果はともあれ、意味するところははっきりしている。要するに、緊縮財政がもたらす景気の悪化に反発し、既成政党に対する不信感を表明するものになるということだ。

 欧州が直面している最大の問題は、昨年秋に悪化したPIIGS(ポルトガル、アイルランド、イタリア、ギリシャ、スペイン)諸国の財政悪化だ。今年3月、ギリシャはデフォルトに陥る寸前で支援を仰いで返済期限を乗り切ったが、支援の条件は緊縮財政による財政再建である。

 ユーロ圏の場合、自国経済だけの都合で通貨を上げたり下げたりすることはできない。統一通貨ユーロの価値を守るためには、ユーロ圏諸国は一定の基準を守ることを要求される。通常なら、経済の競争力が落ちれば通貨を切り下げて競争力を回復し、貿易収支が改善することで財政も国内の資本によってまかなうことができるようになる。しかしユーロ圏の国はこの競争力を回復させる重要な為替相場という手段を「奪われている」。

 だからPIIGS諸国は、それぞれに(というより事実上、ドイツとフランスなど有力国に押し切られて)財政再建の目標を定め、財政再建へ踏み出した。しかしギリシャに典型的に見られるように、経済が縮小している時の財政再建は国民の痛みが大きい。財政支出削減で雇用が打撃を受け、そこに増税が加わると国民の不満は爆発する。

 財政再建目標が達成できないということになれば、再び国の資金繰りが苦しくなる。市場が国債発行金利の引き上げを要求するからだ。ギリシャの国債利回りは一時30%を上回っていたが、現在はEU、ECB(欧州中央銀行)、IMF(国際通貨基金)が支援したことによって20%を切っている。しかしこれが危うい均衡であることも事実だ。もしギリシャの財政再建が目標通り運ばないと(その可能性が高いのだが)、再びギリシャは資金調達ができなくなる。

 財政支出を節約することは、基本的に経済にとってマイナスである。最終需要者の1つである国家が支出を減らすというのは、消費者が支出を減らすのと同じことだ。だからこそ景気が悪いときには国家は財政支出を増やすといういわゆるケインズ経済学が長い間、世界各国の運営原理だった。

 今でも、ローレンス・サマーズ元ハーバード大学学長やノーベル経済学賞を受賞したポール・クルーグマン教授は、積極財政論を説いている。「財政再建のためには経済を成長させなければならず、そんな時に財政支出を削減して財政再建などとんでもない」というのが主旨だ。

 米国のオバマ政権は、連邦政府の財政支出上限を引き上げながら、積極的な支出で経済を支え、それをFRB(連邦準備理事会)が援護射撃している。一方で、大西洋の反対側の欧州はむしろインフレ警戒から野放図な財政拡大には反対という立場をとる。独仏とは一定の距離を置く英国のキャメロン政権も財政支出削減にかじを切ったが、失業率も高く苦しんでいる。

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