デジタル教育ならではの教材ってどんなもの?中村伊知哉のもういっぺんイってみな!(2/3 ページ)

» 2012年06月01日 08時00分 公開
[中村伊知哉,@IT]

 そして、これら開発されたものを現場に導入し、使ってみて検証することが重要だ。すでに各地の学校で情報端末を用いた授業が行われている。DiTTも13の学校を選び、実証研究を進めている。文部科学省と総務省も連携して20の学校で実験している。

 学校の先生方の事務を情報化することも大切。PCやネットの利用は企業では当たり前だが、学校現場ではまだ導入されていないケースが多い。子どもの情報化と先生の情報化を同時に進めなければならない。

 現場の声が大事だ。先生方の不安も根強いという。学校現場は対応できるのか。忙しい先生の負荷を増すことにならないか。情報化は子どもたちの学力向上に効果があるのか。子どもたちの成長にとってデジタル機器に危険なことはないのか。画一的な教育、無味乾燥な教育がはびこるのではないか。

 そこでDiTTは他の団体とも連携し、全国の先生方に声をかけ、情報化を進めるためのオンライン・コミュニティも形成した。現場が主役。情報を全国の先生方と共有することで「もっと使いたい」という声を高めていきたい。

 コスト負担も未整理。学校のIT整備が遅れた原因は予算にあるという意見が強い。実は学校情報化の予算は年間1600億円(!)も積まれているのだが、使い道を地方自治体の裁量に任せているため、予定外の用途に予算の多くが振り向けられてしまい、計画通り情報化が進まない。全額使われればグンと進むのだ。

 そうは言っても分権の風潮の中で、地方を縛ることも難しい。 予算を3000億円程度に増額して、一気に進めたいところなのだが、おいそれと財源は見つからない。でも、知恵はあるだろう。例えば、子ども手当や児童手当で名前が揺れた子ども向け資金のごく一部を期待してもバチは当たるまい。あるいは、国会に法案が提出された「周波数オークション」。デジタルの電波を競売にかけた収益をデジタルの教育に回す。ポルトガルはその方法で子どもたちにPCを配っているという。

 これらに増して大きな問題は「ぼんやりした不安」だ。デジタル教育に対し、漠然とした恐怖感が漂っていること。世代間格差と言い換えてもいい。この柔らかい壁は、なかなかに強固なのだ。

 例えば、田原総一朗さんが『デジタル教育は日本を滅ぼす』という本を出版した。教育を改革すべきという点では私と意見が一致するのに、デジタルが役立つか否かの見解が異なっている。なぜ異なるのか。それは、デジタルなるもののイメージが共有されていないからだ。

 反対意見の多くは、デジタルは電卓のようなもので、授業が画一的になり、先生不在でドリル学習する、読み書きもさせない、というイメージだ。もしそのような使わせ方になるのなら、私だって大反対だ。

 デジタルは、そうじゃない。逆だ。ネットで世界に出かけていって、多様な価値観に触れたり、先生や生徒がつながりあって、学び合ったり教え合ったりする。先生はますます大事になる。つまり、問題はアナログかデジタルか、ということではなく、新しい道具を授業の中でどう使いこなすのか、どんな教育をするのか、なのだ。

イラスト:ピョコタン

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