インタビュー
» 2012年06月15日 10時00分 UPDATE

東京の1票の価値は鳥取の4分の1:「1人1票でないと多数決は保障されない」――1票の格差裁判の升永英俊弁護士に聞く (2/4)

[堀内彰宏,Business Media 誠]

制度改革がなされないままで選挙すると無効にはなるが

――1票の住所差別の裁判はどのように推移したのですか。

升永 1票の住所差別の裁判は1960年代に始まり、もう50年以上続いています。衆院選で50年前に“清き0.2票〜0.3票”だったものが、2009年に“清き0.5票”になるという、カタツムリのスピードです。なぜこんなにスローなのか? その理由は、国民が1人1票問題に過去50年間、関心がなかったからです。

 昭和30年代に越山康弁護士がリーダーになって初めて、1票の住所差別裁判を提訴されました。越山弁護士らは以後2011年まで、約50年間絶えることなく繰り返し1票の住所差別裁判を提訴されました。越山弁護士たちの力で、1972年の“清き0.2票(=1票の最大格差5倍)”が、1990年の最高裁判決で“清き0.3票(=1票の最大格差3倍まで)”に縮まりました。越山弁護士グループと併行して、私たちも「1票の住所差別」裁判を提訴しました。そして、2011年に最高裁が“清き0.5票(=1票の最大格差2倍まで)”判決を下しました。

――最高裁の違憲状態判決を無視して選挙をしたら、それは無効になるのですか。

升永 最高裁の“清き0.5票”判決(2011年)は、「万歳!」と言って喜ぶような判決ではありません。日本国民は、嘆き悲しまなければならない判決だと思います。2011年の最高裁判決は「国民は“清き0.5票”でいい」と言っているわけです。最高裁から「国民の選挙権は“清き0.5票”でいい」と言われた国民は、「それはないでしょう」と言うべきでしょう。

 今まで“清き0.4票”だったのが、2011年の最高裁判決で“清き0.5票”になった。0.1票(0.5−0.4=0.1)マシになったわけです。「“清き0.5票”を認める2011年最高裁判決を守らないで、現状の“清き0.4票”のままで選挙になったらその選挙は無効かどうか」という質問の立て方は1人1票問題の本質を外した質問です。

 答えはもちろん「その選挙は、無効」です。しかし、2011年の“清き0.5票”最高裁判決だと、例えば“清き0.4票”の選挙は無効になりますが、国会が“清き0.5票”に選挙法を改正して選挙をやり直せば、「有効」という判決が出てしまうわけです。不十分です。

――区割りなどの問題もあって、1人1票の選挙は現実的には難しいようにも思えます。

升永 全然無理じゃありません。衆議院議員選挙で、2011年に完全に1人1票を実現する案(「一人一票比例代表選挙区割り」案)が、みんなの党から出ました。

 みんなの党の案では日本全国を10ブロックに分けて、各政党は各ブロックに公認候補を立てます。選挙民は各ブロックごとに、政党または政党が公認した候補者に投票します。選挙結果は、投票後に全国ベースで政党ごとに集計します。A党に入れた票及びA党公認候補者に入れた票が合計で例えば1500万票、B党に入れた票及びB党公認の候補者に入れた票の合計が2000万票と集計されます。全体の投票数を政党別の投票数で比例配分して、政党ごとの当選者数を最初に決めます。各政党ごとに当選者数が決まれば、各政党ごとにその政党の公認候補の中で得票数の多い順番に、当選者を決めていくわけです。こうすることで、完全に1人1票になります。

 ただ、みんなの党は今国会で少数派なので、みんなの党の選挙制度改革案は今国会では通りません。通すにはどうするかというと、次の選挙でみんなの党が過半数を得れば、それが法律になるわけです。

 国民の多数決が実現できる選挙制度を提案している政党であれば、私はどの政党でもOKです。私は、全政党が1人1票を公約にしてほしいと思っています。「1.国民の多数決で首相を選べるようにする」「2.国民の多数決で法律を作れるようにする」というルールに、みんなの党以外の政党も賛成することを期待しています。

――多くの政党は多数決が実現されるような1人1票の選挙制度の改革について、あまり積極的ではないようにみえます。

升永 それは現職の国会議員が既得権者だからです。国会議員は全員、今の住所差別の選挙制度で勝ち残ったわけです。どの政党であれ、選挙で当選した人が国会議員になっているわけですから、当選した議員にしてみれば、自ら当選した選挙区の後援会の組織をゼロにされると、次の選挙で相対的に損です。既得権を奪われるので、多くの議員は1人1票の選挙制度改革に熱心ではなくなります。

 また、スピードも問題だと思います。私は、日本は、このままでは1〜4年以内に、ギリシャ化、スペイン化してしまうと思います。韓国、台湾、米国、フランス、ロシア、ブラジル、メキシコ、アルゼンチン、インドネシア、フィリピンのいずれも、国民が1人1票で大統領を選んでいます。一方、日本では国民は首相を選ぶ選挙権を持っていません。ゼロです。(国会議員が首相を選ぶ制度の)日本では、過去5年間に6人の首相(安倍晋三氏、福田康夫氏、麻生太郎氏、鳩山由紀夫氏、菅直人氏、野田佳彦氏)が変わっています。世界の笑いものになっているのではないでしょうか。

 日本は、国民が1人1票で行政のトップ(大統領)を選べる国々に後れをとると思います。なぜなら、1票の住所差別の下に選ばれた国会議員が首相を選ぶ今のやり方は、国民の多数の意見で首相が選ばれる保障がないからです。

 例えば、野田首相も前回の衆議院議員選挙では、千葉県第4区で約16万票しかとっていません。首相を直接国民が選ぶとなると、前回衆議院議員選挙の総投票数は6600万票ですから、その半分の3300万票はとらないといけないわけです。16万票しかとっていない首相と、3300万票とった首相では役人に対するリーダーシップが違います。

 日本が現状のまま10年経っていくと、年金制度もおかしくなるでしょう。日本の置かれている今の危機的な状況から考えて、1人1票の問題は悠長なスピード感では対応するべきではないと思います。

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