宮崎駿氏は71歳だけど……アニメ監督の高齢化は進んでいるか?アニメビジネスの今(3/4 ページ)

» 2012年06月26日 08時01分 公開
[増田弘道,Business Media 誠]

監督へのキャリアパス

 監督になるためのスタートラインは主に2つある。1つは制作進行から、もう1つはアニメーターからである。制作進行からスタートした場合は、設定制作や絵コンテ、時には脚本が認められ、その後演出、助監督などを経て監督となる。アニメーターの場合は絵コンテや作画監督などを通じてその演出手腕が評価されてのことが多い。

 これら監督志望者は早ければ入社2〜3年(専門学校卒なら22〜23歳、大卒なら24〜25歳)で設定や絵コンテを任せられるようになり、それが認められれば次にシリーズの各話演出や助監督を担当することになる。そして、タイミングに恵まれれば、30歳前に監督デビューを飾るといったパターンが多い。

 随分簡単に監督になるものだと思われるかもしれないが、現実は結構大変である。監督といえばクリエイティブのリーダーであるのはもちろんだが、それは同時に作品の責任者であることを意味する。その重責を担いつつ、毎週作品を完成させなければならないというプレッシャーは相当のものがある。それを30歳そこそこの人材が背負うのである。

人材が育つのはスタジオが機能しているから

 では、なぜこのように若手監督が輩出されるのか。それはアニメ業界では人材育成の拠点となるスタジオが機能しているからだろう。これは映画業界全体と比較すると明白だ。

 次図を見ても分かる通り、1958年に11億2745万人と観客動員数のピークを迎えた映画業界だが、その後1960年代に入り急激に観客動員を落としていく。そのような経緯の中で映画会社は急速に制作数を縮小、演出、撮影、美術といった制作人員の採用は一気に縮小し、1970年代に入るとほとんど打ち切りの状況となった。

映画観客動員数の推移(単位:1000人、出典:映画製作者連盟)

 そして、スタジオが演出人材を育てなくなった映画業界で、監督へのキャリアパスはフリーの助監督、自主映画のどちらかに絞られるようになった。まれにCF(コマーシャルフィルム)制作会社を経由する監督もいるが、今、映画監督になろうと思えば、とりあえずつてを頼って現場に入りフリーの助監督になるか、自分で資金を集めて映画を撮る道しかないのである。

 今の映画業界には、アニメ業界のように「恒常的に雇用が確保され、かつ制作費が保証された状況で作品を作れるといった監督へのキャリアアップシステム」は存在しない。人材育成には必要不可欠なスタジオであるが、アニメ業界においてはしっかりそれが機能しているということなのである。

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