記事を書く前に、なにも感じなかったのか 大手スーパーと弱者の関係相場英雄の時事日想(3/4 ページ)

» 2012年07月05日 08時01分 公開
[相場英雄,Business Media 誠]

『震える牛』の著者として

 今年2月、私は『震える牛』(小学館)を刊行した。地方都市が破壊された経緯や架空の巨大小売り企業の内実を描き、多くの読者の支持を得た。

 今回のコラムは、同作の著者として、どうしても小言を言いたくなったのだ。

 この小説を書く前、シリーズ物のミステリー執筆のために3年程度東北6県をくまなく回った。この間、大手小売業が地方を壊していった経緯を、地元商店主や1人暮らしの老婆、あるいは地元自治体関係者や地方紙のベテラン記者たちからつぶさに聞いた。

 もちろん、全国チェーン企業だけが地方都市衰退の原因ではない。高値での土地売却に色気を出した地権者、街作りに無関心だった自治体などと要因は複雑に絡み合う。だが、私が得た感触の中で、最大の原因は先に触れたように巨大小売業の過剰進出だったのだ。

 私自身、地方都市に暮らす両親を持つ。最近も巨大小売業の店舗網再編により、買い物弱者になりかかっている。とても他人事ではないのだ。


 最後に東北地方の日本海側にある港町の事例を紹介する。

 人口約6万人のこの港町には、某大手企業が展開する中規模スーパーがある。このスーパーの進出により、「市内のメーンストリートがほぼシャッター街になった」(地元商工関係者)。

 私はこの街を6回訪れているが、街の中心部のスーパーの周囲には客待ちのタクシーが列をなす。市内の買い物難民であるお年寄りたちが、タクシーで店を訪れ、そして買い物を済ませたあとは、再びタクシーで帰宅するのだ。

 だが、近々、この中規模スーパーは閉鎖され、「近隣の町村、隣接する他県との中心点に、巨大モールが建設される」(同)という。

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