さて、ここからが本題。なぜ私が嘆息したかその理由を明かす。まずは日経の記事から引用する。
『農林水産省の推計によると、生鮮品を扱う店まで五〇〇メートル以上の距離があり自動車を持たない買い物弱者は九一〇万人……』
東京などの首都圏、あるいは大阪、名古屋等の大都市圏に住む読者にはピンとこないかもしれないが、全国の地方都市の多くで商店街が疲弊し、いわゆる“シャッター街”化に歯止めがかからない状態が続いている。
一方で、こうした都市や街の周辺、高速道路のインター脇、あるいはバイパス沿いには、全国展開する大手小売業者が展開する巨大なモールやショッピングセンターがひしめき合う。全国どこに行っても同じような景色しか見えない。
ネットスーパー事業は、イオンだけでなく、他の大手小売業も注力する分野だ。最大手の新戦略は立派なニュース素材であり、文字通り一面で掲載する価値がある。だが、これを地方や過疎地の消費者の視点で考えてみてほしい。
ここからは私の持論だ。
全国の地方都市で「500メートル以上の距離」を、「クルマで移動せねばならない」ような状況を作った原因は、こうした大手小売業の過剰とも言える進出競争が原因ではないだろうか。
多くの地方都市の商店街を破壊したあと、今度はネットスーパーで買い物弱者を補完するというのは、あまりにも企業の視点に立脚し、地方の買い物弱者を軽視しているのではないか。つまり、企業側のレクにのみ依存し、買い物弱者を生んだ素地が一切合切すっ飛ばされている、と私の目には映るのだ。
大手小売り各社は、電機メーカーや通信会社と組み、お年寄りでも扱いやすい専用注文端末などを用意し、買い物弱者をフォローしているが、これとて矛盾していると私はみる。500メートル圏内のかつての商店街が機能していたならば、お年寄りでも徒歩で買い物に出かけることができたはず。かさむ荷物があれば、顔馴染みの店主や店員さんが運んでくれた。
日経、あるいは共同のどの世代の記者が2つの記事を書いたのかは知り得ない。だが、2つのニュースには、地方の商店街、あるいは買い物弱者の言い分という要素がすっぽりと抜け落ちている。極言すれば、企業の言いなりとなった広報記事だと私の目には映ってしまう。
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