烏賀陽:放射性物質で汚染された、ある自治体の首長に取材を申し込みました。忙しい人なので1カ月ほど前から取材を予約して、当日会いに行ったら、その人は誰とのアポか覚えていなかったんですよ。「え〜と、何の取材でしたっけね?」とそんな調子。こちらが説明したら、「ああ、そうでしたね。忘れていて申し訳なかった。何せこういう事態なので脳がメルトダウンしていまして」と冗談を言っていました(笑)。
放射能災害というとんでもない現実が目の前にあるのに、とんでもない冗談を言って笑ったりする。それは人間の「心の安全弁」なのかもしれない。あまりに現実が過酷なので、笑える、オモシロイことでも言わないと心のバランスが保てない。そこで私にできることは「一緒に笑ってあげることだな」と最近思い始めました。それができるようになったので、私も原発事故の取材がやりやすくなりました。
今のマスコミ報道にはそういう「不謹慎なまでのリアルさ」や「想像を裏切る人間の現実」が出てこないのが非常に不満なんです。人間って、本来すごく矛盾しています。「今日はレントゲン写真1枚分被ばくしましたねえ」なんてあいさつ代わりに冗談を言う。そういう「矛盾したリアリティ」が報道に出てこないですよね。
相場:私もありました。石巻市に、震災前からお世話になっている居酒屋があるんですが、かなり早い段階から復旧したんですね。話を聞くと、「ウチの30メートルほど先にあるお寺の塀が良いあんばいに倒れてくれたんで。ウチの店には水が膝くらいまでしか来なかった。だから復旧早くできたんだ」と。
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