2011年3月11日に起きたマグニチュード9.0の東日本大震災。それが引き起こした巨大津波、そして福島第一原発の事故……。首都圏にまで広がった放射性物質に対し、新聞、テレビ、雑誌、Webサイトなどが報道合戦を繰り広げ、分かったことがひとつだけある。それは「よく分からなかった」ことだ。
原発事故は「戦後最大のクライシス」といってもいい状況だったのに、新聞を読んでも、テレビを見ても、「避難したほうがいいのかどうか、分からなかった」という人も多かったはずだ。3.11報道のどこに問題があったのか。その原因は報道機関という組織なのか、それとも記者の能力なのか。
大震災と原発報道の問題点を探るために、ジャーナリストとして活躍する烏賀陽弘道氏と、作家でありながら被災地に何度も足を運ぶ相場英雄氏に語り合ってもらった。この対談は、全6回でお送りする。
烏賀陽:東日本大震災以降、時代は変わりました。社会の中の平均的な“シリアスネス”みたいなのがめちゃくちゃ上がったから。3.11前は原発の話なんて誰も見向きもしなかったのに。「時代は変わった」としか言いようがないですよね。
相場:現場に入ると他人事じゃないんですよ。ウチの実家は新潟県なので、柏崎刈羽原発がおかしくなると、親戚全員が避難しなければいけない。
烏賀陽:私の実家は京都市内です。関西に行ったときに、滋賀県からクルマを飛ばして、福井県の“原発銀座”を回ったんですよ。あの辺りは半日のドライブで原発3つも4つも回れますから(笑)。
もし福井県の原発が、福島第一原発と同じような規模の事故を起こせば、滋賀県の北部と京都市の北区や左京区などの一部は、飯舘村と同じことになってしまう。「それ、オレの実家も入るやん」と。あわてて実家に電話したら、オカンは「途中に山があるから大丈夫じゃないの」と呑気なことを言っていた(笑)。そんなオカンも福島のニュースは知っている。が、現実感がない。ほんの少し、想像力をたくましくするだけで全く違ってくるのですが。
福島第一原発の半径20キロゾーンは立ち入り禁止、直径40キロの半円が無人地帯になってるんだよ、と言っても、オカンはピンときませんでした。ちなみに40キロというのは、東京駅から八王子駅までの距離とほぼ同じ。あるいは大阪の梅田駅から京都の河原町駅まで。このように言うと、みんな急に「えっ!」とビビるわけです(笑)。
つまり、京都―大阪間、東京―八王子間に匹敵するだけの面積が、原子炉4つがイカレたために、無人になった。その被害の大きさを、多くの人は想像できません。私は別に感覚が鋭いわけではない。ただ現場に行ってクルマで走ったことがあるだけ。でも、その違いって大きいと思う。野次馬でも何でもいいから「ウダウダ東京で言っている前に、1回でいいから行ってみたら?」というのが正直な気持ちです。
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