キャリア女性によるキャリア女性のためのワンピース――「kay me」のスピード感それゆけ! カナモリさん(2/4 ページ)

» 2012年08月02日 14時15分 公開
[金森努,Business Media 誠]

ファストファッションでもモード系でもない、キャリア女性のための服がない

 勝算はあった。毛見自身がキャリア女性であり、朝から夜遅くまで長時間働いている。動きにくい黒いスーツに身を固めて働く姿を見たり、自分自身不満に思っていたこともあり「もっと楽に、職場でも華やかに過ごしたい」という未充足ニーズを感じていたという。

 毛見は自分の足で調査を開始した。有楽町阪急、西武(当時)、セレクトショップのエストネーションなどキャリア女性の買い物場であるショップを徹底的に調査した結果、「華やかでカラダを楽に過ごせるジャージー素材のワンピース」が売り場にないということを実証した。調査対象はアラフォー、アラサーキャリア13ブランド426着(売り場の型数)。そのうち、ワンピースは59着。ジャージー素材は23着。さらに、時間が経っても着崩れないタイプで、1着4万円以下のものはゼロだったという。

 ここで重要なポイントは、「市場調査」というと、フォーカスグループインタビューやネット調査などを実施しようと思いがちだが、「答えはデータの中にだけにあるわけではない」ということだ。自分の仮説を元に、何が売れるのかを「現場」で探索することの重要性が示されているのだ。

バリューチェーンの構築

 「売れる商品」というKey Success Factor(KSF=成功のカギ)が分かっても、その商品を作るためのバリューチェーンを構築しなければ事業として成り立たない。調達→パターン製作→縫製→在庫→出荷→販売→アフターサービスという一連のビジネスプロセスを実現しなければならない。そこで毛見はSNSやFacebookのつながりを辿り、大阪・船場の繊維商社との窓口を開拓することに成功した。しかも、毛見の熱心なプレゼンテーションによって「kay me」ブランドの将来性が買われ、大きな費用がかかる生地の在庫負担などバリューチェーンの大半のリスクを商社が負ってくれる契約を取り付けた。キャリア女性が手軽に手が届く1着4万円以下の価格実現も堅持した。

 驚くべきはここまでのスピードだ。震災を機に事業を思い立ってから実に1カ月強しか経っていないのである。

kay meの商品はワンピースが中心。着ていてラクだがきちんと見えるのが特徴だ

半径5メートルでの実証調査

 毛見の最初の会社であるベネッセ。女性の多い会社としても知られているが、その元同僚にも同窓会で商品が出来上がるまでの間にヒアリングを行った。その結果、服のタイプと値ごろ感は大きな賛同を得られた。手応えがさらに強まった。

 商社とのバリューチェーンが動きだし、商品が完成した。そこで毛見は「試着会」の開催に動いた。商品を30着制作してFacebookで来場者を募り、ホテルの一室を借りて試着会を行ったのだ。「kay me」ブランドが世に出た瞬間である。

 試着会を開いた意義は大きかった。参加者が服を気に入っただけでなく、参加者のあいだに「こういう服が欲しかった」「このニーズは私だけではなかった」という共感が広まった。その場で「売って欲しい」という要望が相次ぎ、全着が完売した。そこに至って大きな手応えを感じたという。

 ここでも注目すべきは、スピード感を重視した「自分から半径5メートル以内」での調査・検証だ。ビジネスの確度を高めるためには調査は欠かせない。しかし、そこで時間を費やしてスピード感を失えば本末転倒になる。最初の30着が売れたのは、事業発案からわずか3カ月目のことである。

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