自身の死に備えるif I dieと、近しい人の死を悼むVirtual Memorialsは、どちらも死に絡んだコミュニケーションを提供するサービスであると同時に、利用者がしっかり根付いた好例でもある。これらのサービスでつちかった文化が一般的なソーシャルメディアに浸透していくシナリオは容易に想像できる。
一方、生前準備を突き詰めると、オンラインストレージやWEBメールに残ったデータの処理まで懸念が及ぶ。実際、Yahoo! JAPANが提供する「Yahoo!ボックス」は、ユーザーの死後にデータを削除したり遺族に譲渡したりするオプションの提供を予定している。
では、コミュニケーション以外の面にはどれだけニーズがあるのだろう。死後にPC内の指定したフォルダを削除してくれるフリーソフトにヒントが隠されているかもしれない。
死後に自分のPCのHDDから指定のファイルを消去してくれるフリーソフトは、国内でも古くから提供されてきた。
2003年4月にVer.1.00をリリースした「死後の世界」は、最新版(1.10)以降のダウンロード数が累計で5〜6万に及ぶという。最新版のリリースは2004年1月と8年以上前だが、現在もコンスタントにダウンロードされているそうだ。そのため、ユーザーからの質問メールも途切れない。
作者のゆき氏は「基本的な操作面の質問とともに、『復旧不能なレベルまで消せるのか?』といった削除機能に関する質問が多いですね。あとは、『死後の世界』というネーミングがおどろおどろしいので、起動画面をタイトルを変えられるようにしてほしいという要望も意外と多いです」と語る。
死後の世界 Ver.1.10。指定したフォルダやファイルを一定の条件下で削除するソフト。条件は「何年何月何日に削除実行」といった期日指定から、「30日間、本ソフトを起動しなかったら実行」など幅広く指定できる。削除実行時に、テキストやHTML形式のお別れメッセージを表示することも可能だ2007年12月に初代(Ver.0.50 beta)を公式リリースした「僕が死んだら...」も、現在までの累計ダウンロード数は約5万件だ。作者は有限会社シーリス代表の有山圭二氏。開発の動機は「僕が欲しかったから作りました」とシンプルだ。
現在も「Macやスマートフォンに対応してほしい」「1台起動すれば、複数のPCを同時に消せるようにしてほしい」といった要望がユーザーから届くというが、開発は2008年1月リリースのVer.1.01 betaで完結したと判断している。

「僕が死んだら...」。削除したいフォルダやファイルをドラッグ&ドロップして指定し、削除実行プログラムを生成する。ソフト起動時に表示するメッセージファイルも暗号化して組み込めるのがポイントだ(左)、生成したアイコンは、自分の死後に家族や友人がクリックすることを想定している。クリックすると、メッセージファイルの暗号を解いて表示する行程に移る。この間に指定したフォルダやファイルを復元困難なレベルで削除するという仕組みだ(右)ユーザーからの声の中には「PCのデータの削除と同時に、SNSやTwitterなどのネットサービスも消せるようにしてほしい」というものもあるそうで、ローカル端末とオンライン上のデータの境界が薄くなっていることを感じさせる。有山氏も「今後SNSやTwitterなどで死後のデータの取り扱い需要が増すようであれば、そのときに専用のソフトウエアを1つ作ろうかとは考えています」という。
ローカル端末とオンライン上のデータの関係の延長線上で、リアル社会とネット社会のつながりを考えることもできる。次回は現実社会の死全般からインターネットを見つめてみたい。
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