インターネットを墓場に持ち込むと、望まないものだけ地上に戻ってくる?古田雄介の死とインターネット(2/3 ページ)

» 2012年08月31日 08時00分 公開
[古田雄介,Business Media 誠]

デジタル資産も相続ノートに書けば、アナログ資産と一緒に管理できる

 遺族に不意の隠し負債を与えないためにも、利用しているオンラインサービスなどをまとめたメモはおきたい。自分が死んだときに伝わることを考えると、そのメモは遺言書と一緒に封入したり、市販の「相続ノート」(俗に言うエンディングノート)に記しておくのがいいだろう。

 相続ノートは、自分が他界した際に周囲が困らないように必要な情報をまとめておくノートだ。財産分与を含めた遺言のほかに、資産や口座一覧や親族と友人リスト、自分の宗教なども明記することで、葬式から相続まで故人の思うようにスムーズに進めさせることができる。昨今の生前準備ブームとともに急速に普及しており、2011年公開の映画『エンディングノート』のヒットが後押しとなって、若年層にも認知されるようになった。

 最近は、自身の死亡時や意思表示ができなくなった際だけでなく、生前に大事な情報を自分で確認する役割も持たせたタイプも増えている。そして、ものによってはデジタルコンテンツに関する情報をまとめる項目を用意しているものもある。

 その典型例がコクヨの「エンディングノート<もしもの時に役立つノート>」だ。30〜40代の男女をメインターゲットにデザインしており、電子マネーやオンラインサービスのID、携帯電話とPC、ISP(インターネットサービスプロバイダ)など、インターネットと関連する項目が多数盛り込まれている。高齢層向けが多い相続ノートのなかで購入層が数段広く、2010年9月に発売後、わずか3カ月で5万冊を突破、2012年1月までに累計21万冊を売り上げるなど、安定したヒットを飛ばし続けている。価格は1470円だ。

コクヨは2009月6月発売の「遺言書キット」から、ライフイベントサポート商品を展開している。「エンディングノート<もしもの時に役立つノート>」(左)は第2弾となる。2012年2月には、第3弾の「おつきあいノート<人とのおつきあいを大事にするノート>」(右)を投入した

 開発にあたった同社の岸田裕子氏は、ノートの制作にあたり、ユーザーリサーチを重ねて、バリバリ仕事している世代に求められる項目やページ構成を突き詰めていった。

 「ブログやSNSのアカウントもそうですが、ネット口座を複数持つ方も増えていて、最近は本人がちゃんと整理しておかないと宙に浮いてしまうほど、たくさんの情報を抱えて生きることが普通になっています。そうした煩雑な情報をパッと見でつかめるように、多くの人が過不足しないようなバランスで項目を盛り込んでいきました」という。ただし、自分でチェックしやすいように工夫しつつも、万一のときに家族が見ることも考えて、要望が多かったデジタル化は意識的に回避している。

 なお、シリーズ第1弾の「遺言書キット」制作時(2006年ごろ)のリサーチを振り返ると、最近は若年層でも死をタブーとする風潮が多少減った印象を受けるとか。

 「以前は『そうはいっても死なないだろう』のような回答が多かったですが、東日本大震災の影響もあり、最近は『死なないにしても、何が起こるか分からない』と、防災意識の高まりから1つの可能性として自分が死んだ時のことも一応は考えるという人が増えた感じはあります」とのことで、実際、防災バックの中にノートを保管しているという便りがたくさん届いているそうだ。

エンディングノート<もしもの時に役立つノート>の目次。「資産」の章にはクレジットカードと電子マネーの情報を記載するページが用意されている。オンラインサービスのIDなどのページは「気になること」の章にある(左)、オンラインサービスの情報は「WebサイトのIDについて」というページにメモする。サイトやサービスの特性から、項目名を柔軟に解釈して使いたい(中央)、「資産」の章にある「預貯金について」ページには、見開きで最大9口座がメモできる。ネットバンクの情報もここに残しておけば見落とされないはず(右)

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