“過熱報道”を避けるために、封印していたネタを公開する相場英雄の時事日想(3/4 ページ)

» 2012年09月20日 08時00分 公開
[相場英雄,Business Media 誠]

 幸い、小高い丘に家が建てられていたため、実家は1階部分だけが浸水。同地区の大半の家屋が流出したことを考えれば、被害は最小限に食い止められた。だが、1階倉庫にあった商売道具が流されたほか、飼い猫も同様に波にさらわれてしまった。

 新宿の居酒屋で、私は友人の家族が携帯電話で撮影したという津波の動画を見せられ、絶句した。大きな道具箱があっという間に波間に消えた。この直後、毛足の長い猫もあっという間に波に。家族が飼い猫の名を必死に呼ぶシーンも映り込んでいた。ペットを飼う身としては、心が握りつぶされるような感覚に襲われたことを、今でも鮮明に記憶している。

 このあと動画を止めた友人が、写真ファイルを私の眼前に差し出した。小さな液晶画面には、毛足の長い飼い猫の写真がある。生前の写真に違いないと思った瞬間、友人がファイルを繰った。そこには、全身泥だらけになり、飼い主に甘える猫の姿が写っていた。

「津波にさらわれてから4日後、ひょっこり家に帰ってきた」というのだ。

 甚大な被害を受けた荒浜で、友人の家は早期にライフラインが復旧。中でも風呂の修理が早めに済んだため、近所の人たちが毎日入浴に訪れていたとか。この際、津波から生還したこの猫は、とりわけ住民たちに可愛がられ、癒しを与え続けたと聞かされた。

 現在もこの猫は、震災前と変わらず友人宅に家族として居住している。写真のデータも頂戴しているが、今現在もこの猫と家族の詳細を明らかにするつもりはない。

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