“過熱報道”を避けるために、封印していたネタを公開する相場英雄の時事日想(1/4 ページ)

» 2012年09月20日 08時00分 公開
[相場英雄,Business Media 誠]

相場英雄(あいば・ひでお)氏のプロフィール

1967年新潟県生まれ。1989年時事通信社入社、経済速報メディアの編集に携わったあと、1995年から日銀金融記者クラブで外為、金利、デリバティブ問題などを担当。その後兜記者クラブで外資系金融機関、株式市況を担当。2005年、『デフォルト(債務不履行)』(角川文庫)で第2回ダイヤモンド経済小説大賞を受賞、作家デビュー。2006年末に同社退社、執筆活動に。著書に『偽装通貨』(東京書籍)、『偽計 みちのく麺食い記者・宮沢賢一郎』(双葉社)、『震える牛』(小学館)などのほか、漫画原作『フラグマン』(小学館ビッグコミックオリジナル増刊)連載。ブログ:「相場英雄の酩酊日記」、Twitterアカウント:@aibahideo


 メディアスクラムという言葉をご存じだろうか。事件や事故、あるいは要人のスキャンダルなどが発覚した際、多数の記者やカメラマンが当事者に強引な取材攻勢をかけることを指す。多種多様なメディアが1つのテーマに集中すると、取材される側の当事者たちは過度なストレスにさらされる。

 東日本大震災の発生以降、何度もこうした現象が起こった。この間、私は1つのネタを封印した。先に触れたメディアスクラムが起こりかねないと危惧したためだ。

おもかげ復元師の苦悩

 先週の当欄で『おもかげ復元師』(笹原留似子著/ポプラ社)という書籍を取り上げた(関連記事)。詳しくは先週分をご参照いただきたいが、同書の中でこんなくだりがある。

 この頃から、復元ボランティアの様子を取材したいとテレビや新聞の記者さんからご依頼をいただくようになりました。震災の前にも幾度か取材を受けたことがあり、わたしは決してメディアに否定的な思いを持っていたわけではありません。しかし、何より優先したかったのは、一人でも多くの方を戻して差し上げること。(中略)だから、取材のご依頼をいただいても、お受けする時間がなかったのです。

 ここからは私の想像だ。1つの新聞、あるいは週刊誌に取材され、活動が掲載されたとなると、他のメディアには焦りが生じる。

 本欄で何度も紹介してきたが、日本のメディア界にはスクープを抜かれたことよりも、他のメディアの大半が報じているのに、自社、あるいは自分の媒体だけがネタを載せない(放映しない)ことを過度に恐れる“特オチ”恐怖症があるからだ(関連記事)

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