天職は思いこむことから始まる――ロンドンで活躍する女性日本酒ソムリエの素顔世界一周サムライバックパッカープロジェクト(3/3 ページ)

» 2012年10月02日 08時00分 公開
[太田英基,世界一周サムライバックパッカープロジェクト]
世界一周サムライバックパッカープロジェクト
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天職は思いこむことから始まる

――人材業からの大転身だと思いますが、人材業で学んだことは現在に生かされていますか?

菊谷 私が新卒で入社したリンクアンドモチベーションという会社は、日本で初めて「モチベーション」、人のやる気に焦点を置いた組織人事領域のコンサルティング会社で、私が入社したころは創業6年目、従業員の平均年齢25歳と若い組織でした。

 新卒採用コンサルティングの新規顧客開拓の営業部門に配属され、体育会系なチームとともに朝から晩までアポ回り、提案書作成、戦略ミーティングと休みなく働きました。

 お客さまとの信頼関係を築くこと、チームで成果を上げること、人を育てることなど、この会社の根幹技術である「モチベーションカンパニー経営」の神髄のようなものをみっちりと体に刻み込んだ2年半となりました。

 短い期間しか過ごすことはできませんでしたが、この会社で教わったことは今の私を作る大切な糧です。

――今後の予定や将来の夢(目標)について教えてください。

菊谷 3年に渡り、当店舗で日本酒販売の成功モデルを創ってこられたように感じます。

 英国生活も4年目に入る中、今後はさらにロンドンを拠点とする欧州での日本酒振興の旗振りをすべく、2013年頭に自身の日本酒PRとコンサルティングの会社を設立するための準備を進めています。交流の深い日本各地の蔵元さんのアンバサダーとして、蔵元さんと二人三脚で欧州における日本酒市場の拡大を推進する事業を創っていくことを目指しています。

 2012年5月、古川元久国家戦略担当大臣から「日本酒を『國酒』として海外展開する」という意思表明があり、官・民が連携して、日本酒・焼酎の魅力の認知度の向上と輸出促進に取り組む推進委員会「ENJOY JAPANESE KOKUSHU」プロジェクトが立ち上がりました。

 また、「日本酒から観光立国」というテーマを掲げて、先述したサケサムライのコーディネーター平出淑恵さんが海外での日本酒振興活動を応援しています。

 このような大きな動きの後押しが少しでもできるよう、この地で日本酒アンバサダーとして日本酒の素晴らしさを伝え続けたいと思っています。

――最後に、日本の若者にメッセージをお願いします。

菊谷 私は先祖の縁で日本酒という星に出会いましたが、今になるとそれは何でも良かったのだと思います。天職やライフワークというのは最初から用意されているものではなくて、「これが自分にしかできない仕事だ」とある意味錯覚するというか、勝手に思い込むところから始まるのかなあと。

 私の場合は祖父が体調を崩して、「今、彼がいなくなったら彼のライフワークの日本酒は誰が担うのだろう? 私がどうにかしなければ」と孫なりに危機感、責任感を持ったところからのスタートでした。そんな祖父は回復して、毎日元気に日本酒を飲んでいますが(笑)。

 そして、せっかく挑戦するのであれば思い切りやること。それも自分に無理をする形ではなく一番やりやすい思い切り方で。

 私で言えば、日本酒の知識もきき酒経験もゼロから始めたので、自分自身の記憶にもなるように日本酒との出会いや素晴らしさをブログという形でつづることにしました。

 継続できるように、自分らしい言葉で、バイリンガルで、趣味の写真や個人的な投稿も交ぜて。誰も見ていないような個人のブログが、今では1日200人もの人がアクセスしてくれるプラットフォームになり、そのお陰で国内外でさまざまな出会いや機会をもらいました。

 それぞれの生まれた星の下、それぞれにしかできない仕事を、情熱を持って思いっきりやってくださいね。

日本酒は世界に広がっていける文化

 サケソムリエという仕事はまだまだ海外では少ないものだとうかがいました。ですが、間違いなく日本酒は日本食ブームとともに世界に広がっていける文化だと思います。

 蔵元というと、どうしてもご高齢の方の姿が浮かんできてしまいます。そういう世界だからこそ、若者の感覚や知恵、イノベーションが必要なのだと思います(僕の実家も祖父の代から苗木生産業を営んでいるのですが、菊谷さんの話で少し考えさせられました)。

 まだまだ海外では一部の人にしか認知・親しまれていない日本酒ですが、菊谷さんたちの努力が実り、10年後には世界中の人たちから親しまれるものになっていると素敵だと思います。

 とりあえず日本に外国人観光客が来たら、ビールもいいですが、日本酒を楽しんでもらうことなのでしょう。それにしても国家として日本酒の推進に動いているとは存じ上げていなかったので興味深いですね。韓国政府がK-POPや韓流ドラマを戦略的に海外輸出しているように、日本政府も上手く取り組んでいってほしいものです。

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