ヒット連発の映画プロデューサーは「石ころぼうし」の視点で世界を見る窪田順生の時事日想(2/4 ページ)

» 2012年10月16日 08時00分 公開
[窪田順生,Business Media 誠]

アイデアを生み出すコツ

10月25日に発売される『世界から猫が消えたなら』(マガジンハウス)

――携帯電話を失くすことは誰にでもありそうな経験ですが、そこから「創世記」まで発想が広がっていくというのは普通はなかなかできません。アイデアを生み出すコツはあるんですか?

川村:僕が映画表現において興味があるのは「みんなが当たり前に感じているけれど、なかなか表沙汰にならないこと」をすくいあげるというものです。『モテキ』はまさにそうで、みんなが触りたくない、封印したいという苦い恋愛の思い出をさらけ出して見せる、というある意味で趣味の悪いもので(笑)。

 『告白』なんかもそうですよね。みんなうっすら感じているが、目を背けている人間の悪意をさらけ出している。みんな誰もが感じていたり、見ているものなのだけれど、表現されていないもの。それにどれだけ気づけるか、ということなのではないでしょうか。

――物語の中に『ドラえもん』の「石ころぼうし」の話がでましたが、まさしくアレですか。

川村:そうですね。「石ころぼうし」というのは、「みんな僕のことなんか放っておいてくれたらいいのに」というのび太のためにドラえもんが出した「道端の石ころのように誰も気づかない存在になれる帽子」なわけですが、ここに藤子・F・不二雄先生の天才ぶりや哲学性が垣間見られます。僕は「ヒットメーカー」なんて呼んでいただくこともあるのですが、なにも特殊な能力があるわけじゃなく、「生活実感」に敏感なだけだと思うんです。

 例えば、いつも歩く道にドーナツ屋ができた。そこで「ふーん、できたんだ」と思う人と、「なんでこんな場所にできたんだろう?」とその理由やいきさつについて考える人がいる。僕は後者の方で、とことん考える。すると、そんな「石ころ」みたいな物事から、さまざまなドラマが見えてくるんです。

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