森口尚史さんのウソで露呈した、マスコミの“弱点”とは?窪田順生の時事日想(2/3 ページ)

» 2012年10月23日 08時00分 公開
[窪田順生,Business Media 誠]

研究者は“しがらみ”に縛られている

 研究者というのは、大学内での立場やら研究費やらさまざまな“しがらみ”に縛られている。だから、自己保身というレベルではなく、関係各位の利益や生活を守るためにウソをつく人がいる。それがあまりに露骨に出てしまったのが、原発事故における「御用学者」と呼ばれたみなさんだ。

 そんなわりと“よくある話”にも関わらず、なぜ読売新聞科学部という一流専門記者らは森口さんにあっさりとダマされたのか。後追いをした共同通信や産経新聞といったマスコミもなぜうさん臭いなと気づかなかったのか。

 医療関係者は「医療知識がない」と読売を批判している。もちろん、それもあるが、ここまで騒ぎが大きくなったのは、マスコミが抱える「構造的な弱点」がある。

 それはなにかというと、マスコミがあまりにもマスコミを信頼していることだ。

 なんだかややこしいなと思うかもしれないが、実はマスコミの記者は、視聴者や読者より、誰よりもマスコミで報じられることを信用している。

 自分たちがこんなにちゃんと取材をして記事を書いているのだから、他の仲間もテキトーな記事を書いているわけがない、と信じて疑わない。そういう性善説みたい考えに、詐話師がつけいる“死角”が生まれる。

 わかりやすいケースを提示しよう。10年前、沖縄にあるNPO法人の男性が、地雷被害児を救う医療施設をつくるため、日本全国で募金をしながら自転車で旅をすると言い出した。そういう美談に目がない某大新聞の熊本支局が、九州に上陸した男性のことをこのように紹介した。

 米国で医師免許を取りニューヨーク市立病院の脳神経外科医になった。有給のまま医療ボランティアとして紛争国に行くことができた。カンボジアやインドネシア、アフガニスタンを回った。「国境なき医師団」に参加したこともあるという。

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