こういう手口を、ひと昔の金融屋やらヤクザはよく使った。私が取材していたころは「養子請負人」なんていう者がいて、自己破産したり金融屋のブラックリストに載ったりしてカネを借りられない人のもとに「養子縁組をしないか」という営業電話をかけていた。
「義父」になるのもたいがい多重債務者か、もしくはその年老いた寝たきりの両親。親不孝な息子が、ワルにそそのかされて勝手に手続きをするというわけだ。寝たきりの親の年金を勝手に担保にして融資を受ける年金担保詐欺と同じ構造で、これが放ったらかしになるとひと昔前に注目浴びた「消えた老人問題」の不正受給となる。
そんな調子で、新しい名前で戸籍がリニューアルされたら、運転免許を紛失したといって再交付する。養子縁組の情報までは信用機関には入らないので、新しい人間として晴れてカネを借りに行けるというものだった。
だが、これはあくまでビギナー向けで、上級者になると借金ぐらいではなくハイレベルな悪事に応用する。カネを借りさせてそのままトンズラさせたりと、さまざまな詐欺の仕掛けにする。
つい最近も、大阪の35歳の主婦が仲間とともに、6年間に養子縁組で4回も名前を変えて保険金詐欺を企てたが、角田美代子容疑者の場合、この“戸籍のリニューアル”を支配と殺人へと利用したというわけだ。
養子縁組制度というのはご存じのように通常、子どものいない夫婦が利用したり、相続の際に使われたりする。養子縁組を悪用するのは「公正証書原本不実記載」という立派な犯罪で、罰金もしくは懲役刑だ。が、これを実際に見抜くのは至難のワザである。生活保護の不正受給でも分かるように、日本の行政は性善説が基本なので、これを摘発する術がない。
だから、昭和の昔からよくあった。ヤクザに取材をしていると、しばらく会わないと急に違う名字になっていたなんてことが珍しくない。以前この連載で紹介した北朝鮮からシャブを大量密輸した組長も、晩年は養子縁組で名前が変わっていた。
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