有権者は何を期待して選挙に臨めばいいのか藤田正美の時事日想(1/2 ページ)

» 2012年11月19日 08時00分 公開
[藤田正美,Business Media 誠]

著者プロフィール:藤田正美

「ニューズウィーク日本版」元編集長。東京大学経済学部卒業後、「週刊東洋経済」の記者・編集者として14年間の経験を積む。1985年に「よりグローバルな視点」を求めて「ニューズウィーク日本版」創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年に同誌編集長、2001年〜2004年3月に同誌編集主幹を勤める。2004年4月からはフリーランスとして、インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテーターとして出演。ブログ「藤田正美の世の中まるごと“Observer”


 野田首相が衆議院を解散した。党首討論で「16日に解散しますから(定数削減を)やりましょうよ」と安倍晋三自民党総裁に迫ったあたりは、さすがに迫力があったと思う(参照動画)。

首相官邸Webサイトより

 民主党に政権を任せておけないというのは、もう「常識」に近い。何と言っても政党としてガバナンスがなっていない。寄り合い所帯の弱点が出てしまったというより、政策がよく吟味されていなかったという根本的な欠陥があった。さらに政治主導という名前で官僚を疎外してしまったことも、政権運営に大きな影を落とした。

 野田首相は「政治を前に進めるのか、それとも後ろに戻すのか」と訴えた。自民党は、下野していたこの3年以上の間に、体質を変えたのかどうかと言いたいのだろう。それは多くの国民が感じているところでもある。民主党がダメなことはよく分かったが、自民党に戻していいとも思えない。

 しかしその前に民主党は、政治を透明化し、さまざまな問題で国民に議論を投げかけることができなかったことを強く反省すべきだと思う。日本のエネルギーに関して言えば、原発依存を止めるというのはいいとしても、それにまつわる核燃料サイクル、再処理、核のゴミといった問題では方向性をまとめることすらできなかった。地方の利害が絡むことの方針転換が難しいことを忘れていたとしか思えない。

 消費税の引き上げは実現したが、一方で、社会保障の給付引き下げという議論ではとうとうあいまいなままに問題を国民会議に先送りしてしまった。どう考えても、今の日本の財政状況からすれば、社会保障関連費用を抑えなければ、財政の均衡など達成できない。消費税を上げてまかなうとすれば、20%の税率にしても間に合うかどうかというところだ。

 そのような負担増を目の前にして、日本経済の戦略をどうするのかということも、とうとう民主党政権では具体的にならなかった。日本再生戦略と称するものこそ策定されたが、これが具体的にどのような予算となり、どのような事業となるのかということについてはほとんど見えていない。

 再生戦略ではこううたわれている。グリーン(環境・エネルギー)で50兆円以上の市場創造と140万人以上の雇用創造、ライフ(健康)で50兆円以上の市場創造と284万人の雇用創造とある。これを2020年までに実現する。しかし、例えば健康分野。50兆円以上の市場創造ということは誰かがその商品なりサービスなりを購入するということだ。高齢化が急速に進展する社会で、いったいこの市場の担い手は誰なのか、そこが見えないのである。

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