窓ガラスの汚い鉄道は潰れる、かも杉山淳一の時事日想(2/5 ページ)

» 2012年12月21日 08時02分 公開
[杉山淳一,Business Media 誠]

廃止された日立電鉄は車窓が見えなかった

 「葬式鉄」経験者の私が、廃止されそうな路線を嗅ぎ分ける場所は「列車の窓ガラス」だ。廃止が決まった鉄道路線を走る列車の窓ガラスは汚い。転じて、窓ガラスの汚れを放置する鉄道会社は将来の見込みがない。廃止届提出予備軍だ。その思いを強くした実例が、2005年に廃止された日立電鉄だった。

 日立電鉄は茨城県の常陸太田市と日立市を結んでいた。起点の常陸太田駅はJR東日本の水郡線の同駅に近かった。終点の鮎川駅はJR東日本の常磐線日立駅の3キロメートル手前にあった。また途中の大甕(おおみか)駅で常磐線と乗り換え可能だった。前身の常北電気鉄道は1941年に日立製作所の傘下となった。鉄橋の数が多く建設費用がかさんだため、常北鉄道時代から経営は厳しく、廃止されるまでもうかったことがない。あと3キロメートル延伸し、常磐線の日立駅まで通じていれば……と思うけれど、おそらく用地獲得や建設費が調達できなかったのだろう。

 私が日立電鉄を訪れた時は2003年10月15日。同社はまだ廃止届を出していなかった。しかし、廃止の噂は濃くなっていった。噂の根拠は鉄橋の老朽化で、赤字続きの日立電鉄は鉄橋の架け替え費用を捻出できないという。訪れて、実際に乗ってみた。確かに駅や鉄橋などの施設は古かった。ローカル線らしいたたずまいと好ましくさえ感じた。車両も古かった。地下鉄銀座線の古い車両を購入し、日比谷線の古い車両のパンタグラフをくっつけたという。

 しかし車両や施設の古さよりも、窓ガラスの汚さに驚いた。運転士の視界にかかる最低限の部分は透明だが、それ以外は客室も運転台の横さえもホコリがこびりつき、すりガラスのようだった。車窓を撮影しようとカメラを構えると、オートフォーカス機能が、本来なら認識されないはずの「窓ガラス」に照準を合わせてしまう。この鉄道はすでに、窓ガラスを拭く余裕すらなくなっていた。

日立電鉄の車両。室内はきれいだが車体は汚かった。車体広告を出した企業も怒ると思う

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