非常時には、平時に思いもつかないような思考回路になってしまうことがある。冷静さを失うことは最も警戒すべきことである。ここぞという場合には、自分の報酬も下げ、オフィスや設備などの固定費も大幅にダウンサイジングし、その後の着実なる復活のシナリオを描かなくてはならないのであるが、経営者の心の中に生まれてしまう感情が実にやっかいなものなのである。
1つは「見栄」の気持ち。どんなに苦しくても世間の目に触れているオフィスやクルマや、身につけているものや、飲みに行く店に至るまで身の丈に合わせて変えるということができない。
もう1つは起死回生の「ホームラン狙い」の気持ちである。業績の落ち込んでいる苦しい時期を早く脱して楽になりたい気持ちと、1つ目の「見栄」の気持ちとがあいまって、事業計画を根拠もなく普段の時よりも強気に復活のシナリオを描いてみたり、ひどい時には現有の経営資源とアンバランスな新規事業に乗り出すような決断をしてしまう場合すらある。
新規事業というものは平時、あるいは資金に恵まれている時でさえ成功の確率は高いものではない。右肩上がりの高度成長期で「やれば当たる」という時代ではないのである。慎重さを欠いた新規事業への舵取でさらに業績を悪化させた例は、枚挙にいとまがない。
これが変革時のリーダーシップに求められることである。(今野誠一)
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