米国・中国・インドに見る、知的財産問題の最新動向(2/4 ページ)

» 2013年01月10日 08時00分 公開
[吉村哲樹,Business Media 誠]

アップルとサムスンの訴訟合戦が意味するものとは

K.I.T.で客員教授を務める弁護士の紋谷崇俊氏

 続いて、同じくK.I.T.で客員教授を務める弁護士の紋谷崇俊(もんや・たかとし)氏が登壇し、「Apple vs Samsung 米国を中心とした国際特許紛争の真実」と題したプレゼンテーションを行った。紋谷氏はニューヨーク州弁護士の資格を持ち、K.I.T.でも米国特許に関する講義を担当している。しかし同氏によれば、アップルとサムスンの間で争われているスマートフォン/タブレット端末の特許紛争は、米国での訴訟提起によって始まったものの、今や極めて大規模かつ複雑化した国際特許紛争へと発展しているという。

 「現在では複数の国で訴訟がおこされており、しかも各国ごとに判断が一様ではないので、実際にはどちらが勝っているのか、どちらが負けているのか、よく分からないのが実情だ」(紋谷氏)

 紋谷氏は、各国で争われている裁判の訴状の内容をスライドで示しながら、この種の国際特許訴訟をどのように理解し、そしていかに対応すべきかについて、さまざまな観点から考察を加えた。

 アップルとサムスンのケースのような特許紛争は「グローバル企業が自社の交渉力を強化するための戦略の一環」という面があることを理解する必要がある。これを踏まえた上で、では具体的にどのような知的財産権に基づいて今回の一連の訴訟が争われているかを考察してみると、実に広い範囲に渡っていることが分かる。通常、スマートフォン/タブレット端末のような工業製品の特許訴訟の場合には技術が争点となることが多いが、今回のケースではデザインやUIが大きく取り扱われている点が特徴だと言える。

 スマートフォン/タブレット端末のような精密機械の開発には、実に多くの技術特許が絡んでくるため、これらを1つ1つクリアするには膨大なコストが掛かる。いわゆる「Patent Thicket(特許のやぶ)」と言われる状況だが、紋谷氏は「パテントトロールが問題視されるようになってからずっと指摘されていることだが、特許に対処するためにコストばかりがかかり、製品開発が阻害されてしまうリスクがある。アップルとサムスンの訴訟は、図らずもこの問題をあらためて大きくクローズアップした」と指摘する。

 さらに紋谷氏は、各国の法制度の違いについても留意する必要があると述べ、一例として米国、欧州、日本における知財関連の法制度の違いを示した。特に米国の制度に関しては、エンフォースメント(法律を執行すること)に優れるというメリットがある半面、多額の賠償額の負担がイノベーションを阻害する危険性もあり、また陪審員が技術的な判断をすることに対する疑問も提起されているという。

 「今後、ますます国際知財紛争が増加することが予想されるが、各国の知財制度や訴訟制度の違いをきちんと把握した上で戦略的に、かつ毅然と臨むことが大事だ」(紋谷氏)としている。

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