米国・中国・インドに見る、知的財産問題の最新動向(3/4 ページ)

» 2013年01月10日 08時00分 公開
[吉村哲樹,Business Media 誠]

中国における知財リスクの実態と最新事情とは

K.I.T.で客員教授を務める秦玉公氏

 次に、中国で弁護士および弁理士として活動するかたわら、K.I.T.で客員教授を務める秦玉公氏によるプレゼンテーション「中国での特許訴訟および技術移転について」が行われた。

 秦氏は、近年の中国における知財環境の変化について紹介した。中国における発明特許の出願件数は、2011年には年間50万件を超え、世界一の出願件数となったとともに、国内保有の有効発明特許権の数が、初めて海外の権者が保有する数を超えた。このことが持つ意味は大きいと秦氏は指摘する。

 「徐々に中国国内の特許権者が、外国企業に対して優位性を確保しつつある。同時に、知財訴訟の数も急速に増えており、2011年には世界一の件数となった。現在中国では国策として知財戦略と知財保護を強化しつつあるため、外国企業が中国でビジネスを行う際には、こうした環境の変化を念頭に置く必要があるだろう」

 続いて秦氏は、中国特許侵害訴訟への対策および留意点について、さまざまな観点から解説を行った。近年見られる特に重要な傾向として、同氏は裁判根拠の変遷を挙げた。中国は元来、日本と同じく成文法(手続きに従って制定され、文章で表現されている法)を採用してきたが、最近では社会発展に伴い米国の判例法に倣った制度が取り入れられつつある。具体的には、最高人民法院公報などに掲載される「指導判例」や地方裁判所の裁判ガイドラインなどが裁判の実務で参照されるようになってきている。

 「こうした判例法は時とともに変わっていき、地方によっても傾向が異なる。従って、中国の知財にかかわる人は、最新の動向に常にキャッチアップしておく必要がある」(秦氏)

 最後に中国への技術移転に関して、特許権や特許出願権の譲渡、ライセンス契約の届出、共有特許権の取り扱いなどのトピックについて、中国独自の制度や日本の制度との違いについて解説した。ちなみに2010年に中国に技術導入を行った国・地域別のトップはEU、次いで日本が2位につけている。

 「中国における技術導入の中身を分類すると、“技術ノウハウ”が断トツで多い。しかし、技術ノウハウは権利としてなかなか登録しにくいので、得てしてトラブルの種になりがちだ。特に中国への技術導入が多い日本企業は、技術ノウハウの移転にまつわるトラブルにはきちんと備えておく必要があるだろう」(秦氏)

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