なぜ「必要悪」の踏切が存在するのか――ここにも本音と建前が杉山淳一の時事日想(3/5 ページ)

» 2013年01月25日 08時12分 公開
[杉山淳一,Business Media 誠]

踏切行政は「立体交差化」「現状維持」の選択肢だったが

 交通の円滑化のため、鉄道路線の立体交差事業が盛んに行われている。東京では東武鉄道竹ノ塚駅の事故――踏切係員が遮断機を開けたために複数の横断者が列車に轢(ひ)かれたのをきっかけに、立体交差事業を特別区主導で実施できるように改められた。それまでは東京都が都内全域の踏切解消に優先度をつけていたため、竹ノ塚駅の立体交差要望は後回しになっていた。

 立体交差事業は国も自治体も取り組みやすい。「踏切をなくす」つまり、前出の法第39条の定義から例外とされた踏切を、法に則って解消する行為だからである。それ以外の踏切はどうかというと、「将来的には廃止するか立体交差が望ましい」というスタンスだ。第4種踏切に警報機や遮断機を設置する工事は「踏切の存在を肯定する」考えに立っているから、この法の精神にそぐわない。

 同法第40条で「踏切保安設備を設けなくてはいけない」としつつ、設置する者が明示されていない。主語を省略できる日本語のずるいところで、国ではなく、鉄道事業者または道路管理者を指すのだろう。また第40条でいう踏切保安設備は、第62条に「踏切道通行人等に列車等の接近を知らせることができ、かつ、踏切道の通行を遮断することができるものでなければならない。」とあるけれど、そのまま「鉄道及び道路の交通量が著しく少ない場合(中略)、技術上著しく困難な場合にあっては、踏切道通行人等に列車等の接近を知らせることができるものであればよい。」と続く。警報機や遮断機ではなくても、立て看板でいいし、道路に黄色い線をペイントするだけでもいいらしい。

 この条文は「通行量の数値基準」や「技術上困難の要件」もない。要するに「いまある踏切は仕方ない」とするための条文だ。99カ所の第4種踏切を抱える秩父鉄道にとって、警報機や遮断器の設置は技術的困難よりも予算的困難であろう。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.